<クイッケン・ローンズ・ナショナル 最終日◇1日◇TPCポトマック・アット・アヴェネルファーム(7,107ヤード・パー70)>
畑岡奈紗は日本人女子選手による41年ぶりのメジャー制覇にわずかに手が届かなかったが、米男子ツアーの「クイッケン・ローンズ・ナショナル」では、フランチェスコ・モリナリがイタリア人選手による71年ぶりの米ツアー優勝を成し遂げた。
今大会はワシントンDC郊外で開催される「タイガー・ウッズの大会」。今年1月に戦線復帰し、早々に優勝争いに絡んだウッズが「今度こそ、復活優勝?」というファンの期待は膨らむばかりで、ウッズがホストを務める今大会では人々の興奮が頂点に達する勢いだった。
初日は48位タイと出遅れたが、2日目は今季自己ベストタイの「65」をマークして11位タイへ浮上。3日目は「68」で回り、首位と6打差の10位タイへ。「ウッズ、優勝争い!」の見出しが躍った。
最終日。ウッズは前半に3つ伸ばして奮闘していた。モリナリの猛チャージさえなかったら、ウッズはまさに優勝争いの真っ只中となり、そうなっていたら復活優勝は成されていたのかもしれない。
だが、そのモリナリは前半で2つスコアを伸ばすと、後半は10番で15メートルのイーグルパットを見事に沈め、11番から4連続バーディを奪った。瞬く間に2位以下を引き離し、一方のウッズは後半1アンダーと失速。最終的にはモリナリから10打差の4位タイに終わった。
黄金期のウッズなら、この日のモリナリのような快進撃をウッズ自身が披露していた。だからこそ「タイガー・チャージ」という言葉が生まれた。
米ツアーの大会では毎週のようにミラクル・スコアをマークする選手が登場し、それを最終日にやってのければ、奇跡のような圧勝や大逆転優勝が達成される。その昔、それをやってのけるのがウッズだったが、今週、それをやってのけたのはモリナリで、ウッズは引き離され、優勝争いの蚊帳の外。それが今の現実であることを痛感させられた。
だが、黄金期のウッズはさておいて、腰の手術とブランクを乗り越えて今年から復帰したばかりという現実を冷静に見据えれば、ウッズの復活ぶりは順調すぎるほど順調と言える。今季3度目のトップ10入り。フェデックスカップランキングは47位へ上昇。一時期は4桁まで下降していた世界ランキングは、明日にはトップ70以内へ上昇する見込み。
今週の4位タイを可能ならしめた最大要因は苦悩していたパットが大幅改善されたこと。メジャー14勝のうちの13勝を成し遂げたエースパター(スコッティキャメロン・ニューポート2)を今大会はマレット型(テーラーメイド・TP Collection ARDMORE3)に持ち替えたことが功を奏し、パットでどれだけスコアを稼いだかを示す指標SGPT(ストローク・ゲインド・パッティング)は今週4日間で+1.20の7位。
しかし、何かが良くなれば何かが悪くなるのがゴルフの難しさで、とりわけ決勝2日間のウッズは肝心な場面で小技が冴えず、スコアを伸ばし切れなかった。
「13番はボギーが2回。14番はグリーンのすぐ横まで行っておきながらバーディが取れなかった」
絶好のチャンスホールで好機を生かせなかったウッズは、狙った獲物を必ず仕留めていたかつての猛虎に戻り切れていない。
折り返し直後から一気にスコアを伸ばしたモリナリは、そこから逃げ切り優勝することは「思ったよりイージーだった」と言った。昔なら、そんな言葉を他選手に吐かせるウッズではなかった。今の現実のウッズは辛抱強く少しずつ、戦いの勘を取り戻しつつある。そして、来たる「全英オープン」は今大会で初使用した新パターを携えて挑むつもりだという。
「フランチェスコのプレーは素晴らしかった」と讃えながらも、インタビューエリアで悔しさを滲ませながら米メディアに向き合ったウッズの表情や視線は、かつてのウッズに近づきつつあった。完全復活まで、おそらくは、あと少し、あと数歩――。
35歳のモリナリは欧州ツアー5勝の実績だが、米ツアーでは初優勝。そして1947年の「アトランタオープン」でトニー・ペナが勝利して以来、71年ぶりのイタリア人選手による米ツアー優勝を成し遂げた。
そして今度こそは、ウッズの復活優勝――10年ぶりのメジャー優勝が期待される全英オープンは、ウッズ一色になりそうだ。
文・舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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