有村智恵の6季ぶりの復活優勝で幕を閉じた「サマンサタバサ ガールズコレクション・レディース」。2013年から参戦した米国女子ツアーや、16年の国内復帰後も、なかなか結果を残せなかった有村が手にした2135日ぶりの勝利の理由はどこにあったのか。上田桃子らを指導する辻村明志コーチに聞いてみた。
【写真】有村智恵は復活優勝でこの涙
■不調時の有村智恵のスイングは…
辻村氏は今大会の有村のプレーを見て、率直に「日本に帰ってきてから一番いいスイングをしていた」という感想を口にした。「米国参戦時から始まっていたと思うが、日本ツアーに戻ってきたころの有村選手のスイングは明らかに狂っていました。それは本人も感じていたと思う」と指摘。この「狂っていた」という当時のスイングを辻村氏は、こう解説する。
「スランプに陥り、インパクトのタイミングがずれると、最後は手先でコントロールするようになる。理想はボディターン(体の回転)で打つこと。手が体についてくるイメージですが、タイミングがずれることで、最後のコントロールの部分で手先に頼ってしまう。有村選手もその状態でした」
有村は優勝後の会見で、2011年に負った手首のケガの影響で、その後「インパクトの瞬間が怖くて、反射で手が浮いてしまう」という状態にあったことを話した。しかし持ち球のフェードを維持しようと、スイング改造に着手したが失敗。そのタイミングで飛距離が求められる米国ツアーに参戦したことで「どんどん変な方向に行ってしまった」と低迷当時のことを振り返った。
辻村氏は「アメリカで飛距離を補うため体を作り、また色々な球種の必要性を感じて、それを打ち込んでいるうちに自分の体のバランスを見失っていた気がする。本当はフェードを打ちたいのにフックになってしまうとか、スイングのイメージが湧かない期間が長かったのでは」と、苦しんでいた有村の心中をおもんぱかった。
■スタッツも「どんどん上がっていく」
しかし、今大会ではようやく「自分のスイングに自信を持っている」有村の姿を見たという。日本復帰を果たした当時の有村を見て、辻村氏が一番驚いたのが、「飛ばなくなっていた」という飛距離だった。「どうスイングしていいか分からないから、スイングのヘッドスピードが上がらない」と以前とは別人のような姿に驚かされたという。
しかし、今大会の最終日の上り2ホールのティショットを見たときに、「戻ってきたな」という感慨が湧いてきたという。「1打緊迫の場面でしっかりとクラブを振り切れていた。本来以上の飛距離が出ていてビックリしました。今の有村選手は、体の回転を使い、手が体に巻き付くように出てきている。体の近くで腕が振れている状態です。だからヘッドが走って、球も飛ぶんです」。
現在63.0435%で、59位のパーオン率などのスタッツが「これからどんどん上がっていくのでは」と完全復活が近いことを感じた辻村氏。この鋭さを戻したショットに加え、「最後まで油断していなかった」という気迫も後押しし、優勝カップをつかんだ有村に称賛の言葉を送った。
■有村と青木瀬令奈の明暗を分けた1打
辻村氏は、有村に次いで2位タイとなった青木瀬令奈のスイングにも注目した。今季は4〜5月にかけ「フジサンケイレディス」5位という成績は残したものの予選落ちも目立ち、「なかなか目に見える結果がでない」と苦しんでいた青木。しかし辻村氏は、今大会を通じ「ヘッドスピードが戻ってきた」と、その変化を感じ取った。
青木のコーチ兼キャディの大西翔太氏は、好調に過ごした大会の要因をダウンスイングで“シャフトを立てて下ろすこと”と、“腰が引けて、右足に体重を残すのを防止すること”という「ショットの調子のバロメータとなる2点をしっかりと確認できています」と説明した。
この技術的な部分以外にも辻村氏は、「選手1人では、どの道に行っていいか迷うときが絶対にある。それをずっと見てくれる人がいることで、正しい道に進める。クセも知っているし、選手は道を間違えるととんでもないところに行くから、その存在は大きい」と、この大西コーチの存在の大きさについて話した。
「青木選手は15番で1.5mのバーディパットを外したことで、次のホールでピンを狙わざるを得なくなった。ピンを右にふってある難しいホールで、右にポロっと外してボギー。最後の勝負のあやは15番でしたね」
有村と青木の明暗を分けた場面についてこう話したが、そのプレー内容から「この2人は後半戦が本当に楽しみな選手」ということを感じとった大会になった。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、比嘉真美子、藤崎莉歩、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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