<WGC-ブリヂストン招待 最終日◇5日◇ファイアーストーンCC(7,400ヤード・パー70)>
「WGC-ブリヂストン招待」を制したジャスティン・トーマス(米国)が18番グリーン脇で待っていた両親や祖父母と抱き合い、うれし涙を流す姿を眺めながら、ファイアーストーンCCの観衆も、思わずもらい泣きしていた。
ジャスティン・トーマス 歓喜をもたらしたドライバースイング連続写真
トーマスは2週前の「全英オープン」で予選落ちしたばかりだったが、そのショックを見事に克服し、世界選手権初制覇と米ツアー通算9勝目、今季3勝目を見事に遂げた。そんなトーマスの強さは一体どこから来ているのだろうか。3日目に単独首位に立ったとき、彼はこう言っていた。
「明日、大叩きを避けて賢くプレーすれば、みんなが僕を追いかける状況にできるはずだ」
とても強気の発言。だが、トーマスには強気になれるだけの拠り所が実はあった。
全英オープンであえなく予選落ちした原因を探るため、今大会開幕前、「僕は僕自身を含めたチーム全員の見直しと改善を求めて話し合いをした」。予選落ちしたのは、トーマス自身の練習や努力が足りなかったからなのか。トーマス自身の考え方や姿勢、気持ちの持ち方に直すべきところがあるのか、ないのか。キャディやコーチ役の父親、マネージャーなど全員に「気付いたことがあれば、何でも正直に言ってほしい」と頼んだという。同時に、トーマスはチームメンバーにも同じことを問いかけた。
「父にもコーチとして改善すべきことを考えてほしいと言った。キャディのジミーにも、もっと僕の側へ踏み込んでほしいと頼んだ」
それぞれから具体的にどんな言葉を得たのか、どんな改善点が指摘されたのかは明かされなかったが、「お互い常に正直であろうねと確かめ合った」。それが団結を強め、彼と彼らの精神面を強くし、そして見事な勝利につながったのだと私は思う。
近年、トッププレーヤーをチームでサポートするスタイルが増えつつあるが、選手が“裸の王様化”するケースはきわめて多く、往々にして、そうしたチームは空中分解してしまう。チームの状態が揺らいだ途端、選手の成績が下降することは、昔も今も想像以上に多い。
そんな中、トーマスのようにチームメンバーと腹を割って話し合いをするというのは珍しく、「僕を含めた全員」の改善を図るという試みは、とても珍しい。そして、トーマスのその姿勢は、彼の父親や祖父母の存在を抜きには、おそらく語れない。
トーマスの父親も祖父もゴルフプロフェッショナル。ツアープロではなくクラブプロだが、祖父は1960年の「全米プロ」に出場し、予選通過も果たした実力者だ。
「祖父は、いつもストレートで、僕が試合でパットが不調だったりすると『全然パットが入らなかったな』と、ズバリ一言。それが逆に僕を気楽にしてくれた」
「祖母は、幼かったころの僕が悪戯をしたときも試合で負けたときも、いつも明るく笑って僕を前向きにハッピーにしてくれた」
そして父親は子供のころも今もコーチであり、メンターでもある。3世代でゴルフに取り組み、母親や祖母もそれぞれの役割を担い、その環境がトーマスの今につながっている。
ゴルフ一家に生まれたサラブレッドだからではない。ごく普通に、人間として家族として、正直に謙虚に本音で関わり合い、助け合い、前進していく。そんなトーマス一家のいわば当たり前の生きる環境が彼の強さを作り出した。
ストレートな物言いでトーマスを応援し続けてきた祖父は、孫が下部ツアーでプロ初優勝した姿は見たことがあったが、米ツアーでの優勝を見たことはなかった。祖父母は高齢ゆえ「今日、雄姿を見せられなかったら、もう2度とチャンスはないと思った。僕の人生に大きな影響をもたらしてくれた祖父母に、どうしても僕が勝つ姿を見せたかった」。
この日、この大会で、トーマスはそのために奮闘した。彼の強さの秘密は、そういうところに隠されていると確信できた。
文・舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>