初日に加え、例を見ないプレーオフでも雷雲接近のため中断となった「ゴルフ5レディス」は、申ジエ(韓国)が2ホールに渡るプレーオフを制して今季2勝目を挙げた。一方でルーキーの小祝さくらは、最終日に追いつくも4度目の優勝争いでまたしても悲願の初優勝には届かなかった。そんな岐阜での戦いを上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が語る。
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■プレーオフに持ち込んだ時点で勝負あり 若手は申ジエのプレーを目に焼き付けろ
8月に入って「北海道meijiカップ」から2位、2位、3位と中々勝ちきれない中でもここ3試合ずっと上位に入っていたジエ。「私でも初めてです」とプレーオフが雷雲接近のため中断する中でも「とにかく集中力を失うことがダメだと思ったので、そこに気をつけました。バックナインをスタートするときの気持ちに戻ろう」とロッカールーム内の人がいないところで一人静かに過ごした。このあたりのメンタルのコントロールが奏功し、再開して最初のホールでパーをセーブしてボギーをたたいた小祝に勝った。
「今季は勝ちきれないところもちょっと見受けられるジエさんですが、平均ストローク1位だけでなく、フェアウェイキープ率とリカバリー率が1位に、パーオン率と平均バーディ数が2位。高いレベルであることに変わりはありません。小祝さんとの違いが如実に表れたのはラフの対応。最終日はともにフェアウェイキープが14回中10回ですが、パーオンが18回中10回だった小祝さんに対して、ジエさんは16回。パー3の分があるので一概には言えませんがこのあたりの上手さが光った。やはりラフでのアイアンの刃の入れ方は素晴らしい。どんなライでも絶対に上から入る。だから球も上がるし、ねじれない」(辻村氏)
また、経験値の違いが際だった戦いでもあった。「ジエさんはプレーオフに進んだ時点で、直接対決の駆け引き勝負に持ち込めることから、“勝てる”と思ったでしょう」。経験による駆け引きが顕著に出たのが2ホール目のバーディパット。10mのパットを入れにいき、2mオーバーした小祝に対し、ジエは1mにピタリ。結局小祝が返しを外して勝負が決まった。「小祝さんの“ショートして負けるのは嫌だ”という強気なパットを攻めることはできませんが、あそこは2パットで次のホールに望みをつなぐ場面。ジエさんは小祝さんのパットを見て、“パーで問題ない”というパットでした。このあたりの経験の差はさすがジエさんですね」。
駆け引きだけでなく、不測の事態への対応、絶好調でない中でのスコアの作り方、メンタルコントロール、そして技術。これだけ兼ね備えた選手はなかなかいない。「ニトリレディスで勝ったアン・ソンジュ選手もそうですが、これだけの技術を持った選手は中々いません。小祝さんだけでなく、若手の選手達は一緒に回れることの大切さを学んで欲しいですし、目に焼き付けて欲しい。いま盗まないと、これだけの選手はなかなか出てきませんから」。
■パッティングの改善がプレーオフまで持ち込めた理由
そんなジエと直接対決した20歳の小祝。ルーキーイヤーながら5月の「中京テレビ・ブリヂストンレディス」を皮切りに、7月の「サマンサタバサ レディース」、「センチュリー21レディス」、そしてゴルフ5レディスと早くも優勝争いは4回目。そして、これまでの優勝争いでは最終日にスコアを落とす場面が見られたが、今大会では最終日に8バーディを奪う猛追を見せた。小祝のコーチを務める辻村氏は、その理由の一つとしてパッティングを挙げる。
「予選落ちした(前週の)ニトリレディスで私がキャディを務めたのですが、間近で小祝さんのパッティングを見たときに、ロングパットはいいリズムでストロークできていたのですが、入れたい距離になるとちょっとテンポが速くなりタッチが合っていませんでした。それが入らない原因でした」。
そこで、ゴルフ5レディスに入る前に、とある練習を行った。「パターのヘッドの上に100円玉を置いて、落とさないように打つ練習をしました。早く切りかえして早く打とうとすれば100円玉が落ちてしまう。短い距離のパットでもゆったりしっかりストロークができるように練習しました」。結果、最終日のパット数24はトップ。3日間通じての平均パット数27.67も黄アルム(韓国)、小野祐夢に続く3位と安定感を見せた。
■コーチ目線で語る「今の勝利よりも大事なモノ」
「もちろん勝つために取り組んでいるが、コーチの目線からいうと」という前提で辻村氏はこう話す。
「もちろん負けた悔しさは持たなければいけません。ただ、たとえ今勝つことに苦しんでも、勝ち始めたときに勝ち続けられる“強い”選手になって欲しい。それを踏まえて、小祝さんは勝つことだけに焦っていないというか、ちゃんと段階を踏んで成長をできています」。
ヘッドスピード向上を目指して取り組み始めた素振りのおかげで、常にヘッドスピードの自己ベストを更新し続けている。パッティングも今回のようにしっかりと課題を見つけて、目標数値を設定することで、平均パット数もぐんぐん上昇している。大きく見れば最初はリランキングまでに1300万円という目標だったのが、シード獲得になり、最終戦のリコーカップ出場ラインの4000万円になり。まだ初優勝には至っていないが、1つ1つ目標をクリアできていることは底力の向上につながっている。
そこにつながっているのは素直さと悔しさを力に変えられる強さ。「小祝さんは一見冷静に見えますが、負けた日にもランニングを欠かさなかったりと、悔しさを感じて練習にぶつけるタイプ。気持ちが強い。今週の月曜日の夜も“素振りを見てもらえますか?”と連絡をくれて二人で練習しました。ただ、悔しがるのではなく、それを練習にぶつけて力に変えられる。そこも一段一段強くなっている理由だと思います」。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、比嘉真美子、藤崎莉歩、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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