最終日を首位と1打差で迎えた今平周吾が、前半を終えて4打差からの逆転劇を演じた「ブリヂストンオープン」は、見応えのある試合だった。賞金ランキング1位に立ちながら未勝利だった今平を今季初優勝へと導いたのは、いったい何か。JGTOのコースセッティング・アドバイザーを務め、選手の強化をコース攻略面から支える田島創志が今大会を振り返る。
【写真】婚約者の菜々恵さんとカップを掲げる今平周吾
■表情は変わらないが目的を明確にして“獲り”にいった
前半はスコアが停滞した今平。自身のコメントにもあるように、攻めに転じたというバックナインは圧巻のゴルフだった。最終日のバックナインでは10パット。「外したら終わりだと思って打っていた」という今平に、これまでには見えなかった気合が漂っていた。「今までは自分のベストのプレーをするんだ、という感じがありました。今回は“勝ちたい”という気持ちがすごく見えていたし、それがプレーにも現れていました。自分の思う、いいスイング、弾道、組み立てを考えていたのが、それだけではない、プラスアルファのものを出したから結果もついてきたのかなと思います」と田島。そのプラスアルファとは何だったのか。
前日までは大振りせずに6、7割の力で振ることをテーマにしていた今平。8番終了時点で、「あまりうまくいっていなかったので元に戻した」と明かした。「今までは、途中でプランを変えるということはなかったのではないでしょうか。自分のプランを変えたというのは、なりふり構わず勝ちに行ったということだと思うんです。そういうがむしゃら感は今までの今平選手にはあまりなかったですが、それを今回はハッキリ見せて、より今平選手の魅力を引き立たせたのかなと思います。『かっこいいな』と思う勝ち方でした」と田島も成長を見た。
それだけではない。「マスターズに出たい」と明言した今平にとって、その目的を達成させるためには、この時期の勝利は最低条件であり、それを自分の手で力強く引き寄せた。年末までの世界ランキング50位内に出場資格が与えられるが、「本人はマスターズに行きたいという明確な目標があるから、あと何勝必要かを考えているでしょうし、それを果たせそうな勢いです」(田島)。
■高速グリーンへの対応でラインをつくっていった今平
「見ていて驚いたのは、日に日にスピードが速くなっていったグリーンでも、緩まずに、しっかりと球をつかまえていたことです。タッチが強くて、ジャストタッチのパットが見られませんでした」。後半の今平は、クラッチパットがすべてスライスラインで下り。「自分でラインをつくって打っていた。それができるようになると強くなるんです」と、ツアーでは誰もが認めるショットメーカーが、パッティングでも輝きを見せた。
「ショットは元々安定しているし、飛距離も出ます。アプローチもバリエーションがあってうまいし、難度が高いものもうまくこなします。ショットがうまいから余計にパッティングがフォーカスされてきましたが、グリーン上でもこういう勝負ができるようになれば、抜けていく存在ではないでしょうか。パターを変えたりと、微調整もしている。若手選手が元気ですが、今平選手を中心にますますツアーが楽しみになってきました」(田島)。
■ジャンボ尾崎らレジェンドたちのような勝ち方を見た
「シーズンも残り6試合ですが、あと最低でも2勝、3勝はするのではないかと思うんです」と田島。今平自身も「まだ勝ちたい」と鼻息は荒い。秋は日本でも有数の名コースで多くのビッグトーナメントが開催される。次週の「HEIWA・PGM CHAMPIONSHIP」は世界の青木功が経験してきた海外コースの要素を盛り込み、「世界で戦えるコースセッティングを」とリメイクされたPGMゴルフリゾート沖縄が舞台。さらに翌週の「三井住友VISA太平洋マスターズ」も世界的なコース設計家のリース・ジョーンズ氏の手が入り、日本のトップコースがさらなる世界基準へと生まれ変わっている。さらには世界ランキング1位になったブルックス・ケプカ(米国)に加えて松山英樹も参戦する「ダンロップフェニックス」も待ち構え、「強くなった今平選手が、このような舞台でどう戦って、どのように世界トップと競っていくかも楽しみになってきました」と田島の期待も膨らむ。
頭角を現してから1勝目までも時間がかかり、2勝目も1年半かかった今平。今回は明らかに勝ちにこだわり、見事に栄冠をつかんだが、その試合運びを見て田島はいう。「こういう勝ち方をされると、2打差、3打差つけてリードしていても分からない。追ってくる今平選手の姿は、ジャンボさんたちが強かったときに重なります。強かった人たちはこういう勝ち方でした。今はバックナインで逆転する人があまりいない。前半で4ストロークの差がついていたのに、それを抜いて勝つのは今までにないパターン。飛び抜けて強いなと思わせる選手がそれほどいない中で、今平選手が新たな姿を見せました」と、強さで相手を威嚇してきた往年のレジェンドたちのような凄みを感じたと田島は話す。
解説・田島創志(たじま・そうし)/1976年9月25日生まれ。ツアー通算1勝。2000年にプロ転向し、03年『久光製薬KBCオーガスタ』で初日から首位を守り、完全優勝。青木功JGTO(日本ゴルフツアー機構)体制では、トーナメント管理委員会 コースセッティング・アドバイザーを務める。
<ゴルフ情報ALBA.Net>