手に汗握る勝負の生放送にはかなわない。先週末の男女ゴルフツアーをテレビ観戦して、改めてそう痛感した。プロ11年目で初優勝をかけて首位でスタートした木下裕太を、川村昌弘が猛追したマイナビABCチャンピオンシップ。32歳の木下に対し、川村は年齢こそ25歳と若いが、アジア、欧州ツアーでの経験も豊富で、前週も優勝争いをしている実力者だ。日曜の午後、これをテレビ朝日系ライブで楽しんでいた。
ところが、1打差で迎えた最終18番。木下が1.5メートルのバーディパット、川村が2.5メートルのイーグルパットを残した一番の見どころで時間切れしてしまった。幸い、CS放送のスカイAで続きを見ることができたが、これが見られなかったファンは残念なことこの上なかったろう。生放送にはこのリスクがある。それでも、結果のわかったものを録画で見させられるより、はるかにエキサイトしたはずだ。
対照的だったのが女子ツアーだ。こちらも、三ヶ島かな、小祝さくら、松田鈴英、小滝水音らが初優勝を視野に入れて必死でプレー。結果的には、ささきしょうこが2打差逆転で今季2勝目を飾る展開だったのだが“お約束”の残念な録画放送。しかも、珍しく男子と同じテレビ朝日系で、女子の方が時間が遅いタイムテーブルだったため、余計に目立ってしまった。
男子ツアーが尻切れになる瞬間に「結果は女子ツアー“樋口久子 三菱電機レディス”の中でお伝えします」という内容のテロップが流れたのだが、これがさらにファンの気持ちを逆なでした。「どうせ録画だろ!?」「じゃあ、ナマを優先しろよ」。そんな声が、あちこちから聞こえてきた。
繰り返すが、女子の展開も決して悪くなかった。だが、ライブの醍醐味を味わった後では、どうしても冷めた目で見てしまう。それがファン心理というものだろう。
さらに、女子ツアー放送を見ながら、LPGAオフィシャルサイトもチェックしてみた。テレビ放送終了までスコア速報が止まったまま、というファンをないがしろにした状態は予想通り。ここまでは想定内だった。しかし、その後が最低だった。試合を最後まで見て、結果がわかった瞬間にスコア速報を更新してみた。ファンを待たせているのなら、せめてテレビで試合が終わった瞬間に更新されるのだろう、と予想して。
けれども、ネットしか見られないところで結果を早く知りたいファン心理などLPGAのアタマには全くないらしい。まったく急ぐことなく、結果がそこに反映されたのは、しばらく経ってからのことだった。
マイナビABCがいいところで切れてしまったという生放送のリスクを背負いたくないテレビ局の事情、スポンサーとの関連などから録画放送を余儀なくされる事情を何とか乗り越えて、ファンの方を向くのが、ツアーを仕切る団体として、最低限やるべきことなのではないか。百歩譲って、録画での放送、ネット速報が止まってしまうことがどうにもならなかったのなら、テレビが終わるのを待ち構えてスコア速報を即、更新する。その程度のこともできないで、いや、やろうともしないでファンの心がつかめると思っているのだろうか。細かいことでは決してない。組織としての姿勢が、ファンの方をまったく向いていないことが図らずも露呈した出来事だった。
ファンなくしてプロスポーツの隆盛はあり得ない。今さらだが、この当たり前のことを、ツアーには反省とともに、心に刻んでもらいたい。(文・小川淳子)
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