「アーノルド・パーマー招待」は混戦を抜け出したフランチェスコ・モリナリ(イタリア)の逆転優勝で幕を閉じた。だが、米メディアの視線の多くは、開幕前からずっと「場外」へ向けられていた感があった。
「場外」とは、言うまでもなく、同大会を欠場したタイガー・ウッズ(米国)のこと。欠場理由は過去に4度ずつ手術を受けた膝や腰ではなく、首痛だという。「ここ数週間、首が痛くて治療を受けていたが、試合でプレーできるまでには改善されなかった。でも長期的になる心配はない」とウッズは自らツイートした。
しかし、米メディアが「心配ない」というウッズの言葉をそのまま受け取るはずはない。過去8勝を挙げた得意のベイヒルにウッズが足を運ぶことなくして欠場したことは「首痛が深刻である証しだ」と心配する声が上がり、「首痛は腰痛から来ているのではないか?」「マスターズまでには間に合うのか?」と危惧する声も聞こえてくる。
昨年9月の「ツアー選手権」を制し、米ツアー通算80勝目を挙げて大復活したウッズは今年1月の「ファーマーズ・インシュランス・オープン」で今季をキックオフし、20位タイに食い込んで「4月のマスターズを見据えていく」と気勢を上げた。
2試合目の「ジェネシス・オープン」は悪天候による不規則進行に見舞われながら15位タイ。3試合目の「WGC-メキシコ選手権」は標高7800フィートの高地で4日間をプレーし、10位タイと43歳ながら踏ん張っていた。
ウッズ自身の言葉にあった「ここ数週間」には、そのメキシコ選手権が含まれるわけだが、現地でウッズが首痛に苦しんでいると報じたメディアは皆無だった。しかし、ウッズの背中にテーピングが施されているところを見たというローリー・マキロイ(北アイルランド)の「目撃証言」が出てきたことで、ウッズの言葉通り、メキシコではすでに首痛を発症していたことがわかった。
気になるのは、ウッズの「長期的になる心配はない」という言葉も、果たして、その通りなのかどうかという点だ。
ベイヒルのグリーンやバンカーはオーガスタのそれとよく似ているため、マスターズに向けた実戦練習ができるという意味でも重要な位置づけにある。ましてや、この地で過去8勝を挙げているウッズが欠場せざるを得なかったのだから、ウッズ番記者たちは「タイガーの首痛は、かなり深刻」と見ている。
元米ツアー選手で現在はゴルフ解説者のポール・エイジンガーは「タイガーがメキシコでセーブしながらスイングしていたのは首をかばっていたせいだとわかり、ようやく頷けた。首痛はとてもシリアス」と心配している。
一方、ウッズのテーピングを目撃したマキロイは「タイガーが慎重になるのは当然のこと。万が一を考えて用心しているだけだよ」と語り、過度に心配している様子ではない。
他選手の中からは「タイガーがいれば、盛り上がり方は全然違うけど、タイガー不在でも大会やツアーがちゃんと回っていくことは、彼が不在の間に実証されている」なんて声も上がっており、ウッズの動向ばかりを取り沙汰する周囲の喧騒にうんざりしている様子も感じられる。
だが、米メディアの視線は、やっぱりウッズに注がれ続けている。「首痛が回復し、次なるプレーヤーズ選手権とその翌々週のマッチプレー選手権に出場したら、タイガーは3週連続出場はしないはずだから、その間のバルスパー選手権には出ない」という見方が有力。だが、プレーヤーズ選手権も欠場となったら、ウッズはメジャー前週の試合には出ない主義ゆえ、マスターズ前に彼に残された試合はマッチプレー選手権のみとなり、ストロークプレーの大会で十分な準備ができなくなる等々、危惧の念は広がるばかりだ。
しかし、それはウッズに対する大きな期待の裏返し。人々はウッズが準備万端でマスターズに臨み、メジャー15勝目を挙げてほしいと願っている。その期待、その願いが大きいからこそ、ウッズの一挙一動に米メディアが視線を凝らし、ファンも敏感に反応する。
モリナリが優勝争いをしていた真っ只中でも、米メディアが次々に発信していたのはウッズのニュースだった。
「ウッズ、プレーヤーズ選手権出場は濃厚」
「ウッズ、会見は火曜日」
「ウッズ、注目グループへ」
そうやってウッズ中心で動いている米ゴルフ界は、ある意味、昔の活気を取り戻していると言えなくもない。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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