<マスターズ 最終日◇14日◇オーガスタナショナルGC(米国ジョージア州)◇7475ヤード・パー72>
タイガー・ウッズ(米国)の14年ぶりとなる「マスターズ」制覇。5回目の優勝はジャック・ニクラス(米国)の6回に次ぐ歴代2位だ。メジャー制覇も2008年の「全米オープン」以来、11年ぶり。米国だけでなく、世界中のゴルフファンが熱狂していたのは間違いないところだろう。
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初日から上位で戦い続けたウッズを追うパトロンの数。バーディを取れば、コース内には地響きのような大歓声がこだました。43歳を迎えたヒーローの完全復活に沸いた4月14日は、記念すべき日として語り継がれるに違いない。
「スポーツ界にとって、『2019年にタイガーが5回目のグリーンジャケットを着た時、何をしていた?』と将来語り継がれるような記念すべき日になったのでは?」と優勝会見で聞かれたウッズ。これに対し「30センチのパットをタップインしていたよ(笑)」と、いたずらな笑みを浮かべたのが印象的だった。数々の苦難を乗り越えてトップステージに戻ってきたウッズの復活は、スポーツ界に大きなインパクトを与えた。
3日目からは、会場の雰囲気はウッズ優勝を期待する空気感にあふれた。初日の11番ホールからノーボギーを続けていたフランチェスコ・モリナリ(イタリア)がバーディを取っても、拍手はまばら。それは300人を超える我々報道陣が詰めるプレスセンターでも同じだった。
モリナリがバーディを決めれば大きなため息がもれ、イタリア人と思われる記者の歓喜の叫びだけが響く。ウッズがバーディを決めれば拍手に歓声。逆にミスをすればため息。報道する側がこんな状況。あまりにもウッズびいきで、モリナリがかわいそうに思えたが、それだけウッズ復活はゴルフ界にとって待ちに待ったできごとだった(ということにしておこう)。
最終日のバックナイン。熱狂の渦に包まれたコースに飛び出そうと思ったが、背の高い米国人ギャラリーでごった返すなか、とてもウッズの姿を追えるとは思えない。泣く泣く自席に用意された各ホールが見られるモニターふたつと自前のパソコンを駆使しながら後半のプレーを追った。
すると、12番パー3でモリナリがティショットをクリークに落とした瞬間、歓声が沸いた。どよめきではなく歓声に聞こえた。コース内はさらに米国ホーム感満載だっただろう。完全アウェー状態のモリナリがまたしても気の毒になった。昨年の「全英オープン」最終日はウッズと同組で、お株を奪うゴルフでイタリア人選手としてはじめてメジャーを制したモリナリが、早くもメジャー2勝に近づいていた矢先のできごと。ここでウッズに並ばれると、その後も15番でダブルボギーをたたき、一気に脱落。大勢のファン“期待通り”の結果となった。
正直、前半のプレーを見ていた段階では、モリナリの飛び抜けた安定感が崩れるとは思ってもみなかった。それが、勝負のバックナインでまさかの大失速。これもすべて、ウッズ傾倒の空気が招いたのではないかと思わせるほどの雰囲気だった。
筆者もゴルフを始めて間もないころにデビューしたウッズのマネをして、タイトリストのフェアウェイウッドを買い、ナイキのクラブを買い、15年ほど前に流行り、今大会でウッズが復活させたモックネックシャツを買っていた世代。それだけに、心の底ではウッズの優勝を期待する気持ちがあったのは否めない。それでも、モリナリの完璧なゴルフからの思いがけない敗北を見てしまうと、次回はもう1回、このふたりの戦いを見てみたいと心から思った。
今季のメジャーはまだ3試合を残し、さらに2022年にはイタリアで米国対欧州の対抗戦「ライダーカップ」が開催される。みんな大好きウッズと、玄人好みのガマン強い堅実なゴルフが持ち味のモリナリ。この調子なら、ウッズVSモリナリの構図はこれからも幾度となく見られることだろう。今後も熱狂を呼び込む対戦を見せてくれることを期待するとともに、ふたりの健闘をたたえたい。(文・高桑均)
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