プロアマ戦が行われた26日(木)、スタート前から何やら慌ただしく走るテーラーメイドのツアー担当者の姿があった。手には同社のドライバー『M6』が握られている。何かトラブルか…!?と思い、後を付いていくと、たどり着いたのは渋野日向子と同組で回る樋口久子の元だった。
73歳にしてこのフィニッシュ!さすが海外メジャー覇者【写真】
手に持っていた『M6』を樋口に渡すと、その場でチェックを開始。何度もクラブの“顔”を確認すると、打つことなく何やら口添えをして担当者に返却した。その後、ずっと使用している同社の『GLOIRE』を手にコースへと出ていった。
実は樋口がプロアマの日に調整したクラブを確認することは、今大会が初めてではなかった。前々週の「日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯」のプロアマ戦でも、同担当者が樋口のドライバーを慌ただしく調整しているシーンがあったのだ。試合に出場するわけじゃないのに一体どういうわけなのか。ツアー担当者に話を聞いてみた。
「樋口さんは、今も初代GLOIREを使用されていますが、『M6』が10年ぶりに愛器を超える可能性があると感じたそうです。それを伺ってから、何度も調整を繰り返しています。今回も細かい調整をして渡しましたが、見た目のチェックだけでした。実際にプロアマで使用するのは、トラックマンで数字をチェックしてから打つのだと思います。まだ、その前の段階ですね」(ツアー担当者)
だが、この簡単な“チェック”にレジェンドのすごさが濃縮されていた。「太陽の位置を考えて一方向だけでなく、色々な方向からクラブの顔をチェックしていたんです。光によってクラブの見え方は変わりますからね。とはいえ、見た目のチェックでここまでするプロは現役のツアー選手でもなかなかいません。さすがとしか言いようがありませんよね」(ツアー担当者)。さりげない1つ1つの動きのレベルが違うのだという。
とはいえ、ギアへのこだわりのすごさは伝わってくるが、樋口は何十年も前にツアーから退いており、出場するのは基本的にプロアマ戦のみ。もちろん、数多の成績を残してきたレジェンドとして「恥ずかしいプレーはできない」という矜持(きょうじ)はあるだろう。そんなプライドが透けて見えたし、かっこいいと純粋に思った。だが、同時に失礼ながら、プロアマなのにそこまでギアにこだわる必要があるのだろうか、という思いも少なからずあったことも、また事実だった。
そこで失礼ながら、本人に直接聞いてみることにした。『どうしてそこまでギアにこだわっているんですか?』。想定してなかったという笑みを浮かべながら返ってきた答えは、想像以上にシンプルなものだった。
「うまくなりたいからですよ」
たったそれだけのことだった。続けて、「そのくらい悩んでいるということです(笑)。今よりももっと良くなろうとしているんです。それはいくつになったって変わりません」と言った。73歳になってなお、向上心は尽きることがないと笑いながら。
今季、渋野が日本勢として史上2人目となる海外女子メジャー優勝。まだ20歳という若さで栄冠をつかんだホープは「まだまだ下手くそです」を口癖として、今大会の2日目にも3時間以上練習するなどツアーでも屈指の練習量を誇る。ビッグタイトルを制してなお、上昇志向は衰えることはない。
だが、42年前に日本勢どころかアジア勢として初めてメジャーで勝利した先人もまだまだうまくなろうとしていた。この圧倒的な思いこそが、海外女子メジャーを制するための最低条件なのだろうと感じた一幕だった。
ちなみに、このプロアマの後に練習グリーンで球を転がした後、「いいパターないですか?」と同じ担当者に質問していたこともここに付け加えておく。(文・秋田義和)
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