先週の国内女子ツアー「アクサレディス」は、最終日に岡山絵里が5打差をひっくり返す“大逆転勝利”という結果で幕を閉じた。2018年「リゾートトラストレディス」以来となる通算2勝目を手にし、「長かった。すごく長かったです」とラウンド後には、大粒の涙を流した。その勝利を映像で見届けた上田桃子らのコーチ・辻村明志氏が、勝因を分析する。
■「うらやましい」ほどのショット力は相変わらず
「ほめるべきはショット力、スイング力。そして、そこに上積みされたパッティング力が、今回の優勝へと導きました」。辻村氏は、岡山が“長所”を発揮し、“短所”を克服した姿を宮崎で見たと話す。
岡山といえば、ツアーを代表するショットメーカーの一人。パーオン率は今季ここまで4位(74.3333%)で、2018、19年も70%超の成績で上位につけた。辻村氏はまずここについて、「非凡。あのショット力はうらやましくさえ思う。スイング力でいったらツアーで1番だと思う」と絶賛する。そして技術的に長けている部分として、まずはじめに「スイング中の前傾姿勢」を挙げた。
「下半身が安定していて、スイング中の前傾姿勢が崩れない。それがシャープな腕の振りにもつながっています。前傾がしっかりとれている状態でクラブを振るので、スイングプレーンも安定します。ここが乱れると、腕があっちこっちにいってしまいますから」
再現性の高いスイングから放たれたボールが、正確にグリーンをとらえる秘密は、こういう部分にある。さらに「フォロースルーの時、両ヒジと体の間隔が小さく、シャフトが体に巻き付いてくる。振り抜く時も前傾のままコンパクトに振り抜けるから、こういうスイングができるのです」とも続ける。また日々のトレーニングが体幹の強さを生み出し、それが「飛距離ではなく、安定感という面でいい効果を生んでいる」とも辻村氏はみている。
■パッティングが大きく進化…どこが変わった?
それでは、なぜこれほどのショット力を持ちながら、2勝目をつかむまでに長い時間を要してしまったのか? それにはパッティングが大きく関わってくる。
今季のスタッツを見ると、優勝後でも平均パット数がパーオンホールで70位、1ラウンド当たりで71位と、明らかに“弱い”ことがうかがえる。岡山自身も「(パットの悩みが)ものすごくあって、人よりも執着していた部分でした」と明かす。さらに優勝の要因についても「1番はパター。1ピンの距離(2.5メートルほど)が結構入ってくれた」と、この部分に求めたほどだ。
そして辻村氏も、先週のグリーン上で以前とは明らかに違う様子の岡山のプレーに目を奪われたという。
「パットを打つ前の素振りの時点で、これまで見せていた不安な様子が消えていました。ラインとスピードをイメージすることに集中していたという感じ。前はここが意識散漫なようにも感じていました。そしてセットして、打ったあとボールが止まるまでの集中力も高まりました。こうなるには技術の裏付けが必要。メンタル面、そして技術面での変化を感じましたね」
岡山は昨年11月から、これまでに鈴木愛らを指導してきた南秀樹コーチに師事。「パター、アプローチを習って、それが一番大きかったな」と信頼を口にする。また「(オフに)めちゃくちゃ練習しました」とも。この1つひとつの事実が、自信として表情に現れてくる。
その“変化の裏付け”となる技術面では、いくつかの進化を辻村氏は見出したが、なかでも強く感じたのが、「軽くないストローク。締まったストローク」と表現する部分だ。
■“技術”と“心”でつかんだ2勝目
「インパクトからフィニッシュまで、しっかりストロークできている。両腕の三角形、特にヒジの下からが、体に近く、低い位置を通ってくる。こうすることでヘッドが浮かず、フィニッシュもピタリと止まる。打った時に『あっ…』と思うと、どこかで緩んで、腕が軽くなります」
これまでは「テークバックばかり気にしている」部分が見て取れたが、それが先週の宮崎では解消されていた。ここに気がいきすぎると、体が後方に動いたり、目が下がったりという現象が起こると、辻村氏は説明する。「パットの調子が悪い時、選手はテークバックが気になる。逆に状態がいい時は、フォロースルーを気にするものです」。しっかりと押し込まれたボールが、スコアにつながった。
先週の試合で、特に辻村氏をうならせたのが、終盤の16番パー3と、17番パー4で見せた岡山のパットだった。16番は7メートルほどから、17番は10メートルは残っていそうな位置から2パットのパーを拾った場面だが、これはともに2段グリーン下からのパットだった。
「“上りのラインは簡単”という言い方をよくしますが、2段グリーンの上りは難しい。例えば16番なら、本来よりもプラス4メートル、13〜14メートル転がすためのエネルギーをボールに伝える必要があります。下りは惰性で転がる部分もある。特に先週のように、“雨”の“2段グリーン”の“上り”と、グリーンが重たくなる条件が3つも重なると、上りのパットは決して簡単なものではありません」
そんななか岡山は、この2つのホールでともに“OK”の位置につけ、しびれる距離のパーパットを回避することができた。終盤の緊張する場面で、もし2メートルのパーパットを強いられたら…、結果は大きく変わっていたかもしれない。これも、しっかりとボールに力を伝える技術がついた産物といえる。
そして最後に辻村氏は、グリーン上で強い球を打つためには技術だけではなく、メンタルも重要になってくると説く。「パットにもミート率があって、しっかり打ち切るため最後に必要になってくるのが恐怖心をなくすなど、メンタルの部分。結果だけを求めると、それは恐怖心につながる。ここまでやってきたことを自信をもってやる。そういう姿勢が先週の岡山選手には見えましたね」。
岡山も優勝会見の席で、「前はミスやボギーを打った時、怒っていた。今はミスをしても仕方ない、と考え方が変わった心の余裕ができました」と、優勝を逃してきた時期と今との違いを話した。“技術”と“心”。その2つがガッチリとかみ合い、つかみとった優勝だった。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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