先週の国内メジャー「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ」は、西村優菜が逆転でメジャー初優勝を達成。硬くて速いグリーンでスコアメイクに苦しむ選手が多いなか、6バーディ・1ボギーの「67」をマークし、終わってみれば2位に3打差をつける圧勝だった。この大会で上田桃子のバッグを担いでいたプロコーチの辻村明志氏に、西村の強さについて聞いてみた。
■パットは両手の高さを揃えるグリップで、球の伸びが良い
辻村氏は上田が優勝した一週間前の「パナソニックレディースオープン」でもキャディを務めていた。その最終日に上田と西村は最終組で一緒に回っている。辻村氏が近くで見て感じたのは、西村のパッティングの上手さだった。そのグリップに特徴を感じたという。「グリップは普通、右手が下で左手が上の順手で握りますが、西村さんは右手と左手の高さが変わりません。パーの手の形でグリップを挟んでから握るんです」。
確かに西村のパッティングを見てみると、順手の握り方ではなく両手の親指の高さが揃っている。このグリップにはどんな利点があるのだろうか?
「右手が下になる普通の握り方だと、どうしても左肩が高くなって、フォロースルーでヘッドが跳ね上がったりする。でも、両手を同じ高さで持つことによって両肩のラインが地面と平行になり、傾斜に対して上手く立てるんです。西村さんはどの傾斜に対しても、スッと気持ち良くアドレスに入ってくる。それに右手と左手の高さが揃っているので、インパクト前後でヘッドがレベルに動く幅が長く、球の伸びが良いんです」
また、この大会で西村のキャディを務めた宮崎晃一氏と辻村氏は、日大ゴルフ部の同級生で仲が良く、いまでも頻繁に情報交換を行っている。「宮崎は西村さんの出球の精度はすごいと言っていた。1、2メートルのショートパットが怪しく入るのではなく、確実にド真ん中から入れてくると。真ん中から入ることによってリズムが良くなり、流れもつかみやすいと言っていました」。
西村は練習でも自分のパッティングの調子を確かめるために、出球のチェックを必ず行う。地面にスティックを置き、ボールがギリギリ通る間隔にティを2本刺して、狭い間を抜いていくのだ。「基本的にパッティングの出球が良い人は、ショットでもラインが出る」と辻村氏。実際、西村のパーオンホールでの平均パット1.7775は、ツアー全体で4位の数字となっている。
「プロキャディさんたちと話したときに、西村さんはミドルパットの10歩以内の距離は、ワンチャンあると言っていた。賞金女王の鈴木愛さんを担いだことがある宮崎も、ミドルパットに関しては、『愛ちゃんと五分五分くらい入れてくる』と見ている。それだけパッティングが上手いことは間違いないです」
■敵は相手ではなく自分自身だから、1人抜け出せた
メジャーというプレッシャーのかかる舞台での鮮やかな逆転劇。辻村氏は西村の技術だけでなく精神面も評価する。「負けず嫌いの性格がすごくプレーに出ていました。笑顔でゴルフはしているけど、ミスショットをしたときに悔しがる顔は、自分の失敗に対して怒れる強さを持っていると思います。感情を出すのが彼女の良いところ。悔しがっても30秒で切り替えられから高い集中力が出せる。20歳でそこまで精神状態をコントロールできるのはすごいことです」と、隙を見せなかった最終日の18ホールを振り返る。
実は辻村氏は最終日の朝の時点で、硬くなったグリーンでは、あまりスコアは伸びないと予想していた。「優勝スコアはトータル11アンダーくらいになる」。そうすれば、トータル8アンダーでスタートした上田にも、2桁に乗せればチャンスはあると考えていた。しかし、フタを開けてみたら、西村が抜け出す展開に。最終的に優勝スコアはトータル14アンダーまで伸びた。これには「間違いだった」と辻村氏はいう。
「競っている相手との駆け引きが強くなりだすと、相手が良いショットを打ったら、自分は行かなくてもいいところで行こうとするし、相手がミスをすれば、行かなければならないところで自分も安全に打ってしまう。そうなればミスもします。昔は相手との勝負の駆け引きがありましたが、若い世代の選手が戦っているのは自分自身。自分のできることを18ホール全部やり抜くのが、今のスタイルの気がします。そうでないと1人抜け出すことはできません」
西村はコースコンディションや相手に関係なく「4日間60台を出すこと」を目標にしていた。結果、初日から「69」「69」「69」「67」と、ただ一人4日間60台を並べる有言実行の勝利。「距離の長いアウトコースは耐えて、アイアンで狙っていけるインコースで3つ伸ばす」というゲームプラン通り、アウトで2つ伸ばして首位に1打差まで詰め寄り、インで3つ伸ばして一気に突き放した。
メジャーの舞台で3打差をつけて勝ったことで、西村は自分のスタイルを確立し、「もっと強くなっていく」と辻村氏は予測する。硬いグリーンであっても7番、9番のショートウッドを駆使して高さで止め、速いグリーンにも抜群に正確な出球でド真ん中から沈める技術。それに加えて、最終日に見せたメンタルや勝負強さは、今後の大舞台でも間違いなく発揮されそうだ。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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