「ほけんの窓口レディース」は大里桃子の優勝で幕を閉じた。前々週、前週で2位と手をかけながらもあと一歩優勝に届いていなかった3年ぶりのタイトルを、なぜ今大会でつかみ取ることができたのか。「パナソニックオープンレディース」で上田桃子のキャディを務め大里とプレーオフを戦い、今大会では指導する小祝さくらのキャディを務めた辻村明志コーチが分析する。
■パターばかりに目が行きがちだが…好調の要因は高弾道のビタビタショット!
大里は優勝会見で最近好調の理由について、「このオフにインパクトゾーンで詰まるスイングを改造して、安定してきた」とショットを挙げた。辻村氏も「今はショットがビタビタピンについていますよね。そこに苦手としていたパッティングが復調してきての優勝だと思います」と同調する。
舞台となった福岡カンツリー倶楽部 和白コースは、総距離は長くないもののドッグレッグ、アップダウンが多いトリッキーなコース。高い球、低い球、さまざまなバリエーションのショットが必要だ。一方でこれまで大里が連続で2位となっていた浜野ゴルフクラブ(千葉県)、茨城ゴルフ倶楽部 東コース(茨城県)はともに関東らしい比較的フラットな林間コース。求められるものが異なるコースでも活躍できたのは「スピンの効いた高い球を打てるから」と辻村氏は言う。
「大里さんは背の高さもあって、大きいスイングアークで縦振り気味のスイングでしっかりとボールにスピンを与えることができる。だから砲台グリーンも攻めていきやすいし、硬いグリーンでも上から止められます。また、ゆったり大きな間で打てるから、ねじれが少ない。だからラフにも行きづらいし、グリーンも外さないから難しいアプローチも残りにくい。だからメジャーでも上位に行けたと思います」
高弾道を打てる一番の要因はクラブフェースの使い方にあるという。「オープンフェース気味のトップポジションを作り、振り抜くことでボールがフェースにしっかり乗り、適正よりも多くの縦のスピンを入れられます。そのぶんめくれていくようなかたちで高い球が打てるのです」。
「今はその“いいトップ”からうまく左に振り抜けています。振り遅れ気味だったのが、体に巻きつくような感じがありますね。ここがこのオフに変えた部分だと思います。しっかり振り切れているから、その反動で戻すようなしぐさも出てきました。そのぶん、しっかりフェースにボールを乗せられるようになりましたね」
そのショットが最大限に発揮されたのが、プレーオフ3ホール目の2打目。18番ホールは496ヤードのパー5で、大里は残りが235ヤード、5番ウッドで5メートルに付けて勝負を決めた。「高弾道の球がフォローの風に乗って伸びて行きましたが、スピンが効いているから手前で落ちてしっかり止まる。大里さんの良さが詰まった一打でした」。
■ショットメーカーが陥りやすい、悩みが始まる悪魔の言葉
一方で18年に優勝を挙げて以降、悩みに悩んだのがパッティング。同年に30センチを外して違和感を覚えてからドツボにハマっていた。大里が試行錯誤のすえにたどり着いたのが、3種類の握り方を気分によって変えるスタイル。通常の順手、クロウグリップ、左手を添える逆クロウグリップを使い分けている。
「指に変な力が入らないクロウで打ち、返しを逆クロウで入れているのを見ていいなと思いました。ファーストパットがカップを過ぎた後の返しを入れるのって悩んでいる人にとってすごく嫌なもの。それを、手を持ち替えて悩みのない状態で打つ。その時に気持ちの良い打ち方を選ぶというのはアリだと思います」
そもそも、どうしてこんなに悩むことになってしまったのか。辻村はショットメーカーの口グセが落とし穴になることが多いという。
「パターがもっと入ったら勝てるのに」
ショットメーカーゆえに人よりもチャンスが多い。だからこそ、短いパットが入っていないという思考に陥りやすいのだ。「短いのが外れるとイメージが残りますし、ストロークも悪くなっていく。そうして、どう動いていいか分からなくなるんです」。今はスタッツが明確に出るだけに弱点として明確となりがち。周りからも言われれば、どうしても気になってしまう。
また、ショートパットが悪くなることで、そればかりに執着し、短い距離の練習が多くなることも悪い方向に行ってしまうことがあるという。「短い距離の練習はどうしてもヘッドの動きだけにとらわれやすい。そうなればパッティングは難しくなってしまう。長い距離の練習も入れて大きなストロークやリズム、スピードを確認することもバランスよくやってください」。我々アマチュアも気を付けたい部分だ。
苦しんだパッティングの復調。辻村氏は握り方だけでなく、気持ちの面も大きいと見ている。「相当悩まされたと思いますが、今は自分の状態を認められているのがすごくいいと思います。隠そうとするのはやっぱりダメ。受け入れたうえで何をしなければいけないのか。それができたからこうして勝つことができたと思います」。
経験すればするほど難しくなるのがパッティング、と続ける。「多くのプロは“ジュニア時代が一番パッティングがうまかった”と言います。そして一番気持ちよくストロークできなくなるのがシニアプロです」。いい経験だけでなく、悪い経験も蓄積される。やればやるほどうまくなるものでないから難しい。
「よく私が言うのは“パッティングは形無し”ということ。入る方法が一番です。“構えがスクエア”、“リズム”、“目線がフィットしていること”、“狙ったラインに出球を出せること”。この4つができていれば、あとはフィーリングが大事。形よりもリズムの大切さ、テンポの大切さにもっとフォーカスしてみませんか」
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
<ゴルフ情報ALBA.Net>