<全米プロゴルフ選手権 事前情報◇19日◇キアワ・アイランド・ゴルフリゾート オーシャンコース(サウスカロライナ州)◇7876ヤード・パー72>
いよいよ開幕を20日に控えた「全米プロゴルフ選手権」だが、4大メジャーのなかでは一見地味な大会というのは否めない。オーガスタ・ナショナルGCで華やかに行われる「マスターズ」は“ゴルフの祭典”。「全米オープン」はその難易度から世界一過酷な戦いと呼ばれ、リンクスが舞台の伝統ある「全英オープン」は自然との戦いだ。それでは全米プロはどんな特徴を持つのか。識者に聞いてみた。
丸山茂樹のエースキャディを務め、いまではTV解説などでもおなじみの杉澤伸章氏に聞いてみた。「シンプルに言えばプロゴルファーナンバー1を決める大会。アメリカはクラブプロのステータスが高くて、クラブプロが1年に一回活躍できる場です」。そもそもの大会の成り立ちが、アマチュアが入らないプロだけのフィールド。文字通り“プロゴルフ選手権”だ。
「日本でも日本プロがあって、日本プロゴルフ協会のティーチングプロが1名出られますが、全米プロは予選会があって20名が出られます。クラブプロのランキングなどもあって、結構年配の方も出ていたりするので、クラブプロを大事にする文化があるんです」。世界トップレベルの選手に加え、地域に根ざしたクラブプロにもチャンスを与える。それが全米プロだ。
また、特徴として「PGAツアーの延長のような大会です」と説明するのは松山英樹のエースキャディを6年間務めていた進藤大典氏だ。松山とともに数々のメジャー大会を経験してきた進藤氏。「一番PGAツアーに近いコースセッティングでやるのが全米プロです。全米オープンはサディスティックですが、全米プロは攻めていかないといけない大会です」と話す。
「ほかのメジャーに比べてバーディ合戦となることが多いのが全米プロで、そういう意味でエキサイティングなメジャーです。マスターズは独特のエキサイティング感がありますが、ほかのメジャーに比べて歓声とか、そういうものが多いのも全米プロの特徴ですね」と、アグレッシブなプレースタイルが必要となる傾向が強いという。
杉澤氏は、「全米プロ=距離が長い」というイメージが強いと話すが、これは18年まで8月に開催されていたため、フェアウェイが軟らかかったという特徴があったからと補足する。「今までは勢いのある選手や、若い選手が勝つことが多かった」と杉澤氏。2010年以降を見ると、10年のマーティン・カイマー(ドイツ)、11年のキーガン・ブラッドリー(米国)、13年のジェイソン・ダフナー(米国)、15年のジェイソン・デイ(オーストラリア)、16年のジミー・ウォーカー(米国)、17年のジャスティン・トーマス(米国)と、メジャー初優勝の選手が多いのも事実だ。
ところが5月開催(昨年はコロナ禍のため8月開催)になるとシーズン最後のメジャーという肩書きはなくなり、芝の状態などからも、全く違う様相を呈することもありそうだ。
ちなみに、15年大会の2日目には、岩田寛が当時の海外メジャー最少ストローク記録に並ぶ「63」をマークして話題となった。現在は、全英オープンでブランデン・グレイス(南アフリカ)が叩き出した「62」が最少記録だが、全米プロに限っていえば、「63」はいまなお最少ストロークタイ記録だ。
「すごく覚えていますよ。覚えていますけど、あんなに騒がれると思っていなかった。18番で人がいっぱいいたのは覚えている。記者とか、なんであんなにいっぱいいるんだろうと思って見ていました。自覚してなかったし、『63』って他にいっぱい出した人はいるじゃないですか。だから別に、と思っていた。やってるときは知らないし、後々聞いたんですけど。最後、アプローチが入りそうで騒いでいる人がいたから、なんでだろうって思っていました」(岩田)
最終ホールではアプローチがカップをかすめ、チップインバーディ逃しのパー。新記録とはならなかったが、現地メディアも沸き立った。岩田は会見場に呼ばれ、寡黙なジャパニーズとして取りあげられた。岩田のこの快進撃も、やはり全米プロならではのできごと。調子のいい選手が一気にスコアを伸ばしてくる、そんな展開を象徴するシーンだった。
今年は5月開催に加えて大西洋に面したリンクスコースが舞台。風向きによっては伸ばし合いというよりも耐える展開が予想されるが、初出場の選手がいきなり優勝、あるいは岩田のようなビッグスコアを出す選手が、日本から出ることを期待したい。
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