今週のウェルズ・ファーゴ選手権は2日目から悪天候に見舞われ、気温が上がらなかった最終日も選手たちは厳しいコンディションを強いられた。
そんな中、優勝争いは最終日を単独首位で迎えたキーガン・ブラッドリーと2打差の2位からスタートしたマックス・ホーマのデッドヒートとなり、淡々黙々とプレーしたホーマが2打差で逆転勝利。今大会2勝目、今季2勝目、通算4勝目を挙げた。
ホーマは31歳の米国人選手。ここまで来る道程は、実に険しく長かった。
カリフォルニアで生まれ育ち、大学もカリフォルニア大学バークレー校へ。大活躍したカレッジゴルフではジョン・ラームらを見事に打ち負かし、プロ転向後の2013年セーフウェイ・オープンではジャスティン・トーマスとともにPGAツアーにデビューした。
しかし、ラームやトーマスがスターダムを駆け上がっていった姿を尻目に、ホーマはPGAツアーとコーン・フェリーツアーのあいだを行ったり来たりの苦しい生活を5年超も繰り返した。
日の目を見ない下部ツアーにあっても、どんなときも、ホーマが自身に言い聞かせていたフレーズがある。
「岩にぶち当たったら、シャベルを探し、地面を掘ってでも、僕は岩を動かしてみせる」
そうやって歯を食いしばった日々の努力が実り、ホーマは18年の秋にコーン・フェリーツアーの最終ランキング15位で翌年からのPGAツアー出場権を手に入れた。
そして、19年の今大会で初優勝を挙げ、夢見心地を味わったものの、20年は成績が振るわず、21年を迎えたときは世界ランキング3桁の目立たない選手だった。
しかし、この1年半ほどのあいだ、次々に3勝を挙げ、瞬く間に世界トップ30へ、フェデックスカップでは6位へ浮上。「自信」と「きっかけ」がどれほど大きなモノをいうかを如実に物語る躍進ぶりを見せてきた。
最大のきっかけは、昨年2月のジェネシス招待を制し、表彰式でタイガー・ウッズと並んで立って記念写真に収まったことだった。
「1997年マスターズを圧勝したタイガーの姿は、まだ幼かった僕の胸に刻まれ、ずっと憧れてきた。そんなタイガーと並んで立ったとき、初めて僕はこのツアーに居ていい存在なのだと実感することができた」
昨年9月、今季開幕戦のフォーティネット選手権を制し、通算3勝目を挙げると、今大会を堂々制して、今季2勝目、通算4勝目。
どんなに大きな岩にぶち当たっても、小さなシャベルを手にして硬い地面をコツコツ掘り続けてきたホーマの忍耐と努力が、ついに岩を動かし、だからこそ彼の視界は一気に開けたのだろう。
愛妻レイシーが第一子となる男の子を妊娠していることがわかったのは、わずか12日前のこと。大学時代はスター選手でありながら、プロ転向後は一転して陽の当たらないイバラの道を一人歩んできたホーマが、夫になり、父親になろうとしている今、本業のゴルフにおいても名実ともにトッププレーヤーの仲間入り。まさに「いいことづくめ」だ。
「下部ツアーをさまよっていたころ、僕は自分の人生は恥ずかしいものだと感じていた。でも今は、そうは思わない。あの苦しい日々があったからこそ今がある。そして今、自分の人生は、いい人生だと心底思える。かつてないほど、自分で自分が信じられる」
ゴルフにおいても、私生活においても、幸福感と自信を得たホーマの健やかな心が、健やかなゴルフを生み出し、それが彼の見事な勝利につながった。まもなく母になる愛妻の姿は、残念ながら「母の日」の試合会場にはなかったが、「今日は僕にとって特別な日になった。みなさんにとっても、良き母の日になりますように」と人々に語りかけたホーマ。
勝者のすがすがしい笑顔は、眺めていた大勢のゴルフファンにも笑顔をもたらしたのではないだろうか。幸福感のお裾分けをもらったような気がした。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>