不振から脱することができないイ・ボミ(韓国)に何が起きているのか。圧倒的な強さと愛くるしい笑顔でファンを魅了し続けてきたスマイル・キャンディが先週の『ニトリレディス』で今季7度目の予選落ちを喫した。初日は7オーバーの110位タイ。かつて、ここまでの成績でスタートした大会はなかった。プレー終了後、話を聞こうと思ったが、苦笑いと苦痛が入り交じった表情に一瞬、戸惑ってしまった。
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2015年、16年に賞金女王となったボミの様子がおかしくなったのは昨年。「目標を見失った」、「燃え尽き」などといわれ、春先から調子が上がらない。8月の「CAT Ladies」で優勝を遂げたものの、その後も低迷し、気づけば賞金ランキングも23位。日本ツアーフル参戦を開始した12年以降で最低の成績。複数年シードがあるとはいえ、今季もここまで賞金シード圏外の91位。表情が曇るのも当然だろう。
今年の2月に取材したとき、「年間複数回優勝を狙っていきたい」と順調な仕上がりを強調したが、いざシーズンが始まると、スタートからつまずくことになった。昨年の不調時の記憶がよみがえり、「不安だらけ」の言葉が増えていく。ついには体にも異変が起きた。6月から7月にかけてはツアーを長期離脱。そのあいだに憩室炎(腸の炎症)を発症。入院も余儀なくされた。復帰後もかつての元気な姿は戻ってきていない。「病は気から」とはよくいったものだが、気持ちの滅入りに体調の悪化。悪循環。頭の中も混乱状態に陥り、ゴルフの調子も上げることができずに後半戦を迎えてしまうことになった。
ボミを1番近くで見る清水重憲キャディも「まずは頭の中身、メンタルの問題」といってきた。ツアー屈指の安定感を誇る精密なスイングを持つボミだが、スコアが出ないとなると、技術面での不安が押し寄せる。技術向上ばかりを考えるようになり、「思いっきり振り切るのが怖い」と今でも話す。「フォロースルーで左に振り抜いていきたいけど、怖いから左足が突っ張って腕だけが左後方にいってしまう」。急激な引っかけが増え、それを怖がれば右に押し出す。考える時間が増え、闇にはまっていくパターンはいっそう色濃くなった。
そんなボミを一時的にせよ救ったのは今季復活優勝を遂げ、すでに2勝をマークしている黄アルム(韓国)だ。そんな状態のボミをみかねたアルムが、スイングのアドバイスを送った。「私なんかがいっても良くなるということではありません(笑)。でもボミも頑張っているし、何かしてあげたいと思って」と、1学年先輩として、暖かくボミを励ました。前述の左足の突っ張りを指摘したのはアルム。そんなできごともあって、ニトリの2日目には、久しぶりにボミらしいゴルフが見られた。
予選通過を目指し序盤からバーディを重ねた。1番スタートの前半を2アンダーとして折り返すと、10番でもバーディ。予選通過ラインの4オーバーまで戻した。初日の出遅れを必死に取り戻そうとした。ところがこの必死さが、今のボミにはこたえてしまったのではないか。終盤に来て3ボギー。「ラウンドの途中で集中力が切れてしまうことがあって」と、力なく答えた。「最近はコンビニで売っているストレスを軽くするチョコも食べています」と笑って話したが、目の奥は暗かった。
それでも2日目を1アンダーで終えたことはプラスに働くに違いない。そう思っていたのだが、「少しわき腹が痛いかも」と話してコースを後にしたのが気がかりだった。先月患った憩室炎の詳しい症状やその後の経過は明かしてないが、まだ万全でないことは明らかだった。そこにきて、今週の「ゴルフ5レディス」を急きょ、急性腸炎のため欠場すると発表。追い上げむなしくニトリで予選落ちを喫したことが、体にも影響を及ぼしたのかもしれない。
同郷でこちらも1学年上のアン・ソンジュ(韓国)がニトリレディスを制した。今季4勝目。ケガにより苦しい時期も経験した。「ゴルフをやめたい」と何度も思った。立ち直りのきっかけは、「悪いときにやめたくない。優勝している強いときにかっこよくやめたい」という思いだった。「いいときも悪いときもあります。でも自分で解決するしかない」とアドバイスを送る。アルム、ソンジュといった先輩からもエールを受けるボミ。あとはボミ自身がどこまで吹っ切れるか。確かな技術があるのだから、いつ好転してもおかしくないと思う。そのときが今シーズン中に訪れることを待ち望みたい。(文・高桑均)
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