大坂なおみの全米オープンテニス優勝は、日本のスポーツ界に大きな喜びをもたらした。テレビをつければ大坂を見ない日はないほどの“なおみフィーバー”(もはや死語かもしれないが…)。テニス人気は一挙にヒートアップしているように見える。連日、テレビでは“なおみ効果”が報じられ、テニス人口減少に悩む関係者は、これを起爆剤にしようと盛り上がっている。
【写真】ツアー初優勝の香妻琴乃がカップに口づけ
かつて、若者は猫も杓子もラケットを持って歩き、リゾート地にはテニスコートがどこにでもあった時代から、うまく人気をつないで来られなかったテニス業界が、これをどう、今後につなげていくのか見守りたいところだ。
スーパースターの登場は、即、そのスポーツの底辺拡大につながるのかどうか。確かに、大坂の活躍でテニスに興味を持つ人が増えるのは間違いない。
プレーヤーを増やすという観点から底辺拡大を考えてみよう。昔、プレーしていた人が再びラケットを握りたくなることは増えるだろう。興味はあってもプレーしていなかった人が、一歩踏み出すこともあるかもしれない。
プレーまでのハードルの高さはどうだろう。まず、何をすればいいか?ラケットを買う?ボールは?どっちも借りられる?靴は?ウェアは?コートに行くとかレッスンをするにはネット検索すればいい?いやいや、最初は壁打ちでもしてみよう…。一緒にやれる人の顔も何人か浮かぶ。そう考えると意外に一歩を踏み出すのは難しくない。
ただひとつ、大人にとって高いハードルとなるのは、「急にあんな運動をして大丈夫なんだろうか」という、肉体的な問題だけだろう。逆に若者にとっては、その気になれば始めやすいスポーツだといえる。これをどれほどブームにし、定着させることができるか。大坂、錦織圭というスーパースターは、テニス普及のために大きな原動力となるが、推進力としてはその活躍だけに依存してはならない。他の推進力としてテニス界がどんな手を打つのかは、注目に値する。
さて、ゴルフに話を移そう。大坂と近い世代の畑岡奈紗は、残念ながら今年、メジャーで優勝することこそできなかったが、それが狙える位置にいた。来年はさらに期待が高まる。だが、それが普及につながっているかというと、微妙なところだ。「日本女子オープン」連覇の畑岡がメジャータイトルを取る前は「残念」で終わってしまう風潮がある。メジャーの舞台で勝ち負けを争える位置にいるだけで興味深いのに、これをなかなか広げられない。畑岡人気にガソリンを注ぎ続ける役を誰も果たせていない。そんな気がしてならない。
もちろん、畑岡の契約メーカーは踏ん張っている。だが、ツアー関係者、ナショナルフェデレーションたる日本ゴルフ協会(JGA)関係者はといえばどうだろう。「よそのツアーの話だから」で終わってはいないだろうか。畑岡が米ツアーで初優勝したとき、さすがに日本女子プロゴルフ協会(LPGA)オフィシャルウェブサイトにはそのニュースが載った。だが、それ一発では全く盛り上がらない。情報は、伝え続けることでジワジワと伝播(でんぱ)していく。ファンの気持ちにガソリンを注ぎ続ける努力、これを怠ってはならない。
テニスと同じように、ゴルフに興味を持った人がゴルフを始める時の常用を考えてみよう。クラブは?ボールは?というところでまず引っかかる。レンタルしようにも購入しようにも、どれを選べばいいかわからない、というのが初心者だったり復活ゴルファーだったりの高いハードルだ。知人にいいアドバイザーがいればいいが、そうでないことも多い。ただの知ったかぶりだったり、見栄っ張りだったりすると困った事態になる。
一方で、テニスとは逆に、楽しむレベルならそれほど肉体的な心配はいらないが、どうやってボールを打つか、というところで、教えてくれる人を探すという次のハードルがある。気持ちのいいコースでボールを飛ばす楽しさどころか、練習場でボールが当たらずいやになってしまうだけ、というケースも少なくない。
コースに出始めると、交通手段を考えなくてはならず、仲間を集めないとなかなかプレーしにくいのが日本の現状だ。
“底辺拡大”という場合、プレー人口と並行して、テレビ、ネットなども含めたファンの人口についても考える必要がある。ゴルフが他のスポーツと大きく違うのは、ファン人口についてとかく“おざなり”にしがちだということだ。
野球をしない野球ファン、サッカーをしないサッカーファン、相撲をしない相撲ファン、スケートをしないフィギュアスケートファン、テニスをしないテニスファン…。わざわざ断るまでもなく、プレーヤー=ファンでは決してない。だが、ゴルフに限っていえば、ゴルフをしないゴルフファンの割合は非常に低い。これについては、ツアー発足以来の関係者の怠慢といわざるを得ない。興行として成功することこそ、プロスポーツ成功のカギなのに、結果を急いでスポンサー依存の体質を作り上げ、それを改めることをしてこなかった。
「日本では無理」「日本では状況が違う」と、正論をバッサリ切り捨て、50年後、100年後のビジョンを描いて来なかったツケは、いったいどれほどになるのだろう。
プレー人口を増やし、それと並行してプロスポーツのファンを増やすことこそ、真の底辺拡大に他ならない。テニス界を横目で見ながら、ゴルフ界が今後をどう考え、切り開いていくのか。大きな目で見て、関係者すべてが動かなければならない。いまや人気の女子ツアーが、その大きなカギを握っている。(文・小川淳子)
<ゴルフ情報ALBA.Net>