<ULインターナショナル・クラウン 2日目◇5日◇ジャック・ニクラスGCコリア(6,508ヤード・パー72)>
ゴルフのマッチプレーはケンカのようなものだ。目の前の相手を倒しにいくガチンコ勝負。通常のストロークプレーとは違うから、選手のみならずファン、関係者までをも巻き込んで盛り上がるのだ。
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先週開催された欧米対抗の「ライダーカップ」がそうであるように、選手の気合も尋常ではないし、ファンの熱狂も最高潮に達する。欧州チームが地元フランスで勝利を挙げると、ボルテージはマックスで、敗れた米国チーム内からは不協和音まで聞こえてきた。それだからこそ、国・地域を背負って戦う試合は見ていても面白い。
今週は韓国で女子の対抗戦が行われている。詳しい説明は省くが、世界ランキング上位の選手を多く抱える8カ国が集結し、女子ゴルフ世界一を決める戦いに挑んでいる。地元韓国をはじめ、米国、イングランドなどとともに日本も出場。2日目を終え、劣勢に立たされてはいるが、選手の気合とともに取材するこちらにも力が入る。国際大会なのに日本メディアがほぼいない状況はさみしい限りだが…。
台風接近の影響で、土曜日に予定されていた第3ラウンドが2日目の午後から前倒しで始まった。日本の対戦相手は米国チーム。まぎれもなく強敵だが、マッチプレーは何が起こるか分からないから楽しい。日本代表の成田美寿々と比嘉真美子ペアは第1ラウンドのタイ戦、第2ラウンドのスウェーデン戦に敗れ、是が非でも1勝を挙げたい戦いに気合十分だった。
スタートの1番はともにバーディチャンスを迎えた。比嘉は惜しくもチャンスを逃したが、成田がパットに入ろうとしたときだった。米国チームのクリスティ・カーが、あろうことか成田の目の前、しかも至近距離に立ち、獲物を威嚇するように見つめていた。選手のプレー時に視界に入らないのは、世界共通の“暗黙のルール”。仲間内のゴルフならまだしも、世界大会でのこの行動に驚いた。
怖い選手。ほかの選手からも恐れられている。そんなカーの存在は知っていたが、これは明らかにやり過ぎだ。その後も日本選手の視界に入る場所に立ち、腕を組んで仁王立ちを繰り返したカー。ペアを組むレクシー・トンプソンは、グリーン上ではなるべくカーと離れた場所から戦況を見つめたが、カーとはあえて距離を取っているようにも見えた。それが元々当たり前なのだが…。
ご存じの方も多いと思うが、ゴルフのルールブックの最初のページにはマナーの記載がある。マナー違反はルール上、罰せられるものではないが、だからこそ根底にあるマナーという最も大事な精神を忘れることがないように記されている。紳士淑女のスポーツなどといわれるが、そういうことではない。互いに気持ちよくプレーするのは当たり前のこと。そんなことが、できないトッププロがいることが信じられなかった。
いくら国別対抗戦で気持ちが高ぶっているとはいえ、やっていいことと悪いことがある。むしろ国別対抗戦だからこそ、恥じるべき行動は控えねばいけないと思う。ライダーカップを見ていても、互いのスーパーショットには対戦相手だろうと賛辞を惜しまない、そんなスポーツマンシップが随所に見られる。ガチンコ勝負の中でもマナーという暗黙ルールは存在する。カーの行動はゴルフの精神を犯していると思えた。
チャリティにも熱心に取り組むことで知られるカー。来週41歳の誕生日を迎える大ベテランながら、いまだ米ツアーで勝利を挙げ続けている。海外女子メジャーでも2勝、米ツアーの通算勝利数は20を誇り、紛れもなく米国を代表するスター選手だ。若手に対して影響力も大きいスターが取った行動は、チームメイトや米ファンにどう映るのか。
そんな暗黙の妨害行為にもめげず、成田・比嘉ペアは前半3アップまでリードを奪ったが、その後はレクシーの活躍で1ダウンまで逆転された。12番のグリーン上で日没サスペンデッドとなってしまったが、まだまだ日本チームにも勝機はある。国の威信と自らの誇りを懸け、日本ツアー代表として出場している成田と比嘉には、ぜひとも一矢報いてほしいと願う。(文・高桑均)
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