「アース・モンダミンカップ」と並ぶ賞金総額1億8000万円のビッグトーナメント「NOBUTA GROUP マスターズGCレディース」はアン・ソンジュ(韓国)の逃げ切り勝ちで幕を閉じた。一方で松田鈴英や原英莉花といった若きショットメーカーの躍動も見られた4日間大会を、上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が掘り下げる。
■ショットは「65点」それでも勝てた理由
優勝したソンジュは初日のハーフで「30」をたたき出した。トップスタートということもあり、初日の序盤から、「伸ばさなければ勝てない」というバーディ合戦をほとんどの選手に強いる展開となった。
「優勝できた一番の要因は初日のハーフにあったと思います。ハーフで30という数字を作れた理由は3つ。まず、綺麗なグリーンでできたこと。足跡もディボット跡もないグリーンは“入れるイメージ”がわきやすい。そして前に組がいないから進行もスムーズでリズムを作りやすい。さらには普段から目をかけている後輩、柏原明日架さん、永井花奈さんとのペアリングも良い方向に働きました。楽しそうにリラックスしてできたこともいきなりの猛チャージにつながりました」(辻村氏)
とはいえ、そのまま簡単に逃げ切れたわけではなかった。特に最終日は辻村氏が「見ている限り、特にアイアンは良さそうではありませんでした。65点くらいでしょう。手で強く振っているような感じで、ラインを出し切れている感じはありませんでした」というようにショットが荒れて2オーバー。「だって“74”ですよ?本当にショックです」と本人が話すなど、追いかけてくる松田に1打差に詰め寄られるなど薄氷の勝利だった。それでも逃げ切れたのには理由がある。
「ゴルフ力の高さが際立った勝利だったと思います。ショットが悪くてもパーを取る、というお手本のような1日でした。アプローチ、パターでしのぐ技術の高さはやはりレベルが違う」。中でも「その数値を図るランキングは当然存在しませんが、あったとすればアンさんは間違いなく1位候補」というのが集中力の高さ。
「集中力のコントロールが本当に上手い。最終日でも、ホール間は同組で仲の良い菊地絵理香さんとリラックスしながら話していました。ですが、ショットを打つ瞬間にはピタッと集中している。このあたりの気持ちの切り替えが本当に巧み。切り替えという意味では9番でダブルボギーを叩いたのに、10番でバーディが決まった瞬間からスイッチが入るところもさすが。以前ヤマハレディースのときにも言いましたが、エンジンがかかったアンさんはもう誰にも止められません。極めつけは上がり3ホールです。ここでアンさんは一番集中できる。何故なら前半から集中力をセーブして使っていたから。経験の差が如実にでましたね」
■似ている部分の多い松田鈴英と原英莉花 足りないところは全てアン・ソンジュが持っている
一方で追い詰めたものの終盤に崩れて初優勝を逃した松田については「同じ4位タイに入った原英莉花さんと似ている部分が多い」という。
「松田さんも原さんもボールストライキング(トータルドライビング順位とパーオン率順位を合算したランキング。ショットの上手さを総合した数値)の数字が高い(松田が3位、原が5位)。つまり“飛ばせて”、“乗せられる”選手ということ。2人は実質今季が初めてのフル参戦というルーキー。それでこの順位ですからポテンシャルの高さ、将来性を感じさせます」(辻村氏)
彼女たちのショットには技術的な凄みよりも身体的な能力の高さを感じるという。「二人とも背が高く(松田が167cm、原が173cm)クラブを速く振る、という力が非常に高い。躍動感あるスイングと分厚いインパクトにセンスを感じる。だから飛ぶ。松田さんのスイングを見るとインパクトからフィニッシュまでが速い。普通の人は打ち抜いた後はフィニッシュまで緩むものですが、松田さんは緩まない。腹筋、背筋がしっかりしていて腕を速く振れるという天賦(てんぷ)の才です」
一方で課題も共通。リカバリー率(松田が70位、原が84位)、1ラウンド当たりの平均パット数(松田が94位、原が77位)が表すとおり、アプローチ、パターである。「このあたりが今後の課題になってくると思います。グリーンを外したときに1パットでいけること。それができればスコアもグッと良くなる。1打は縮まるでしょう」。もう1つが先述の集中力である。「アンさんから学ぶところは多い。松田さんも原さんも集中力のコントロールが、初優勝に向けて大事な部分になってくると思います。最後まで集中できるようにすることができれば、終盤で崩れなくなります。とはいえ、来年の出場権を得たので、今季の残り試合だけで無く、来年がとても楽しみです」
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、比嘉真美子、藤崎莉歩、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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