米ツアーはハワイからアメリカ大陸へ移り、本土での2019年初戦はカリフォルニア州パームスプリングスで開催された「デザートクラシック」だった。
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その初日に単独首位に立ったフィル・ミケルソン(米国)の言葉が興味深かった。
「ゴルフは不思議なゲームだ。何が起こるかは本当にわからない」
オフの間の練習量や肉体のコンディショニングが満足のいくレベルではなかったと感じながら大会にやってきたミケルソン。だが、蓋を開けてみれば、初日はキャリア3度目の「60」をマークして単独首位へ。開幕前の自身の期待値は低かったにもかかわらず、予想外の好成績。そのうれしいギャップを喜びながら「ゴルフは不思議なゲームだ」と言った。
2日目も3日目もミケルソンが単独首位を維持していたことは決して不思議ではなかった。しかし、最終日はボギー発進となり、パットもなかなか沈められず、それまでの3日間とは異なるプレーぶりになった。終盤はともに最終組で回っていたアダム・ハドウィン(カナダ)、アダム・ロン(米国)と三つ巴になり、3人の勝敗を分けたのは72ホール目の18番だった。
ロンは名門デューク大学のゴルフ部を経て、2010年にプロ転向。以後は草の根のミニツアーやカナダ、ラテン・アメリカ、下部ツアーのウェブドットコムツアーなど方々を転戦すること8年を経て、ようやく今季から米ツアーにデビューした31歳の新人だ。
そんなロンが左足下がりで前下がりの難しいライから打ち放った72ホール目の第2打は、ピン4mにピタリ。ミケルソンの優勝を待ち望んでいた大観衆も、ロンのこの好打には割れるような拍手喝采。フェアな声援が見られたその場面は、とても心地よかった。
ミケルソンの第2打も好打だった。だが、グリーンに落下後、ピンから離れて転がっていき、残念ながら12mのバーディパットを沈めることはできなかった。
ハドウィンは母国カナダのファンの期待を担い、米ツアー2勝目を目指して奮闘していたが、第2打をグリーン奥のバンカーに入れ、パーセーブが精一杯。
ロンが4mのバーディーパットを見事に沈めたその瞬間、ミケルソンは視線を落としながら頷き、ハドウィンは同い年のロンの勝ちっぷりに、思わず無言で拍手。敗者の潔さが見られたその場面は、とても美しかった。
48歳のミケルソンが練習不足を自覚しながらも、3日間、若者たちを抑えて首位を快走していたことは、ゴルフというゲームだからこそ起こりうる不思議現象の一つ。
そして、メジャー5勝を含む通算43勝のミケルソンを相手に、31歳の遅咲きの新人がデビューからわずか6試合目で堂々と渡り合い、勝利を掴み取ったことも、ゴルフは何が起こるかわからない不思議なゲームだと言われる由縁の一つなのだと思う。
世界ランキング417位で今大会に臨み、米ツアー初優勝を挙げたロンは「フィルは僕が人生でずっと尊敬してきた人。そんな選手と一緒に回れたことは、とても楽しく、とても幸運なペアリングだった」と興奮気味に語った。だが、彼は自身の優勝が奇跡だとは思っていない。
「これまでの長い歩みにおいて、とりわけ、ここ2年ほどは、僕はステディに上達し、前進していると感じていた」
敗北したミケルソンの言葉が、またしても興味深いものだった。
「ゴルフは不思議なゲームではあるが、土台がしっかりしていなければ勝てない」
自分自身の土台が今回はしっかりしていなかったという自省を込めた言葉。そして、敗者ミケルソンから勝者ロンへの、最高の「贈る言葉」だった。
文・舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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