大切なのはファンファーストだ。LPGAの都合も、テレビ局のメンツも、ファンの知ったことではない。ツアー放映権の帰属に端を発する、一昨年からのゴタゴタに対して、強く、そう感じている。
熊本大会への思いを語る有村智恵、笠りつ子、上田桃子【写真】
テレビ放映権の帰属を主張するとともに、LPGAはネット中継に対して力を入れることを宣言してきた。自ら配信するネット中継を開幕戦から行いたい意向を昨年末から表明してもいた。しかし、序盤戦にはまったく間に合わず、各大会個々に、その旨説明して回っているという。それどころか、ネット中継をあるテレビ局に依頼した、という話まで聞こえてくる。
一体、どうなっているのか。ツアーとして年間を通したネット中継はいつから始まるのか。それについてLPGAに問い合わせると返ってきたのは「この件についてお話しすることはありません。何もいえないんです」(事務局広報担当:鈴木孝之氏)という答え。最近のLPGAお得意のだんまり返答で取りつく島もない。若年層ファン開拓のための切り札として力を入れ、将来的には大きな収入源にしようと目論むネット中継がなかなか現実にならないいらだちすら感じられる。
これまでツアーが生命線としてきたテレビ中継と、ここ数年、ニーズが高まってきたネット中継。ネットなら世界中の人が簡単に見ることもできるし、ファン目線で見れば、両方あればこれに越したことはない。今年、ネット中継は見られないのだろうか?
LPGAに主導権があるものではないが、今年のシーズン第3戦、「Tポイント×ENEOSゴルフトーナメント」では、例年通り、ネット中継が見られることがわかった。2012年に試験的にネット中継を始めた同大会は、女子ツアーにおけるネット中継のパイオニア。地上波が始まるとネットを止めざるを得ないという最初の状況から調整を図り、昨年はついにテレビと同時に生放送を行うというところまでこぎつけている。今年も、LPGAのネット中継が間に合わないということがわかったことで、例年同様に行うことを決めた。
高原祥有大会運営委員長(CCCマーケティング取締役)とトーナメントプロデューサー(博報堂DYメディアパートナーズ)の佐草伸吾氏の2人は、ネット中継についてこんな風に語る。「実は、金曜日の昼間が一番、視聴率が高いんです。仕事で移動中の電車の中や、会社でこっそり見ている方がいるんじゃないでしょうか(笑)。ゴルフは知識欲のスポーツ。よりマニアックなものを放送したいと思っています。ゴルフ場に来られない人が、ファンとの距離を縮められるように」(高原氏)。「よりたくさんのホール、たくさんの選手を見せたいし、解説も長時間自由にしゃべってもらうことで面白さが出れば」(佐草氏)。確かに、コアなファンは金曜日にスマホや仕事場のパソコンでネットを見て、土日にはテレビとネットを一緒に見て楽しんでいる。
パイオニアとして女子ツアーのネット中継に力を注いできた立場から、LPGAがツアー全体のネット中継をすることに関してはどう考えているのだろうか。「『自分たちを実験台にしてくれ』とずっといっているんです。いいものはマネしてくれればいい。(シーズン)39試合に横串を指すようにしてネット中継できるのはLPGAしかいない。それができれば喜ばしいことだと思います」(高原氏)。「この試合が高いレベルの基準になってくれればいいなぁ、と思います。ただ一つ、危惧するのは各大会の差別化をどうするか、でしょうね。我々は大会の内側からの発信だから大会に対する愛がある。全試合でそれができるのかどうか。もう一つ、LPGAさんはネット中継を若い人向きととらえているようですが、現実としてはネットもテレビも見ている層は変わらないですよ」(佐草氏)。そろって、ツアーの発展に協力を惜しまないという姿勢を見せている。
ネット中継を作り上げてきた人々のこの思いを、いつの日かLPGAがきちんと受け止め、より良い形でファンに届けることができるのだろうか。将来を見据えた権利の主張はもちろん大切だ。しかし、地に足のついた形でかつ、長い目で物事を見る必要を感じる。(文・小川淳子)
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