いよいよ今週は、今季2つ目のメジャー大会「全米プロゴルフ選手権」が開催される。今年の舞台はニューヨーク州ロングアイランドのべスページ・ブラックコース。先週9日(米国時間)には、すでにタイガー・ウッズ(米国)の姿が目撃された。
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ウッズは相棒キャディのジョー・ラカバを伴ってべスページの数ホールをプレーしたという。パー3の3番ではティショットを2球打ち、どちらもピンそばにピタリ。「1球はピン2mに付いた」「いくつかのホールのグリーン周りではショートゲームの練習も綿密に行なっていた」等々、いろいろな目撃談も聞こえてきている。
べスページは2002年に史上初めて「全米オープン」の舞台になったムニシパル(市営)コースとして注目を集め、そのときフィル・ミケルソン(米国)に3打差で勝利したのがウッズだった。
当時、全長7214ヤードのべスページはメジャー最長で最難関と恐れられ、実際、出場選手たちの多くが、その過酷さに顔を真っ赤にしながら「アンフェアだ」と怒声を上げていた。そんな中、ウッズがマークした優勝スコアの3アンダーは、4日間で唯一のアンダーパーだった。
その7年後の2009年、再びべスページで全米オープンが開催された。悪天候に見舞われ、スタート時間による運不運が大きく分かれたこの年の大会は、トータル4アンダーで回り切ったルーカス・グローバー(米国)が予想外の初優勝を飾り、ウッズはトータルイーブンパーで6位タイに終わった。だが、それでも「74」を喫した「初日の不運」からのタイガー・チャージは見事だった。
2002年も2009年もべスページのコースセッティングはタフだった。長い距離、狭いフェアウエイ、深く生い茂るラフ、固く速いグリーンは選手泣かせだった。
しかし、そのべスページで今週開催されるのは全米プロであり、全米オープンのような過酷なコースセッティングにはならないだろと見られている。全米プロを主催するPGAオブ・アメリカのケリー・ヘイCCO(チーフ・チャンピオンシップ・オフィサー)は「コースの難度を人為的に操作しようとすることは、私たちの仕事ではないと考えています。選手たちの素晴らしさや強さをフェアに試すゴルフが披露されるようなコースセッティングをするつもりです」。
全米オープンを主催するUSGA(全米ゴルフ協会)が毎日のようにティマークの位置を変えたり、芝の刈り方を変えたり、水を撒いたりという具合に人為的に難度をコントロールするのに対し、全米プロは「風と天気次第」と、ヘイCCOは言う。
「グリーンがソフトになって、しかも風が無ければ、スコアは伸びる。強風でグリーンがカチカチに干上がれば、スコアは伸び悩む。そんなふうに、成すがままでいいと私たちは思っています」
それが、そのまま易しい設定を意味しているとは限らない。逆に言えば、「成すがまま」には、風と天気次第、あるいは他の何かの影響次第では何がどうなるかわからないという未知の怖さが潜んでいる。ひょっとしたら全米オープンを上回る難しさになる可能性もあり、全米オープンとは異なる難しさになる可能性もある。
はっきりしていることは1つ。ひとたび開幕したら、人為的な操作を極力抑え、マザーネイチャーのご機嫌に委ねるという今年の全米プロのコース設定は、過度にパワーゲーム化し、技巧化していた昨今の傾向から離れ、「ゴルフはコースとの闘い、自然との闘い、自分との闘い」という本質に立ち戻ろうとしている。
千変万化のコースだからこそ、何が起こるかわからない。それこそが、ゴルフの醍醐味である。今年のマスターズを制し、メジャー15勝目を挙げたウッズ、17年前にべスページを制したウッズであっても、そうした過去の実績がそのまま生かせるとは限らない。
とはいえ、ラスベガスのブックメーカーによれば、ウッズの全米プロ優勝のオッズは10倍と、かなり高い。だが、大自然のいたずらに「成すがまま」となるべスページでは、この数字がどちらの方向にも大きく動く可能性があり、だからこそワクワクさせられる。
これから始まる全米プロに世界の注目が集まっている。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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