<リゾートトラストレディス 最終日◇2日◇グランディ浜名湖ゴルフクラブ(静岡県)◇6560ヤード・パー72>
2日目のラウンドが終わった後に原英莉花は言った。「目の前に敵がいるのは嫌いじゃない」。まさにその通りの状況となった最終日。粘り続ける敵をねじ伏せるような師匠・ジャンボ譲りのゴルフで、見事にツアー初優勝を挙げた。
優勝を決めて大粒の涙を流す原英莉花【写真】
「今日は朝からなぜか集中できている」という予感通り、1番からいきなり3連続バーディを奪い首位に浮上した原。だが、その後は伸ばしあぐねて、同組の昨季韓国ツアー賞金ランク2位のペ・ソンウ(韓国)、今季絶好調の同い年・河本結、昨季2位4度のこちらも同級生・小祝さくら、そしてアマチュアの古江彩佳と多士済々なメンバーでの激しい優勝争いとなる。
10番のボギーで一時後退したが、気合い十分のショットメーカーは諦めない。14番で4mを沈めて3番以来のバーディを奪うと、15番、16番と立て続けに2mを沈めて3連続バーディで単独首位浮上。原の直後にバーディを奪ったソンウにまたしても追いつかれて迎えた17番では、9mのバーディパットを残し、キャディからは「タッチを合わせて2パットでいいよ」と言われたが「ここで決めたいと思った。集中した」と入れにいき、4連続となるバーディを奪取。「難しいパットだけどねじ込めた。鳥肌が立ちましたね」と再び単独首位に立つ。
だが、韓国ツアーでもまれた実力者はそう簡単には勝たせてくれない。18番で原がパーとするなか、2mにつけてバーディを奪い勝負は一対一のプレーオフへ。さらには、プレーオフ1ホール目に原はパーオンする中、ソンウはグリーン右奥からのアプローチをミスして6mのパーパットを残してしまう。だが、原のバーディパットがわずかに左に抜けると、ソンウはこのパーパットを沈めてガッツポーズ。負けられないプライドがぶつかり合う。
それでも原は冷静だった。ソンウのパッティングは「私なら入れるのは不可能」というものだったが、「入れてくる心構えはできていました」と次のホールに行く気持ちの準備はできていた。
18番(パー4)と15番(パー3)を繰り返す変則プレーオフの2ホール目。次の15番では先に打った原が2mにつけると、次のソンウも負けじと4mにつけてくる。しかし、ソンウのバーディパットは決まらず。「ソンウさんのパットは私の打つパットの対角線上でカップ際は結構切れていました。切れるか切れないか。迷いはありましたが、絶対強く打とうと思って(ラインを消して)薄く読んで打ちました」。覚悟を決めたこの一打をねじ込み、右手を天に突き上げて歓喜の瞬間に酔いしれた。
プレーオフになった時点で自信はあった。「目の前に敵がいるのは嫌いじゃない」というのはハッタリでも自分を奮い立たせるためでもない。プレーオフの経験はないが、去年出場した日本選抜VSタイ選抜の対抗戦「第一回アマタフレンドシップカップ」のマッチプレーではタイの実力者たち相手に4戦4勝。さらにはゴルフ番組で行われたマッチプレーでも競り勝っていた。だからこそ、18番が終わった時点でキャディに「私、プレーオフ強いから」と確信を持って勝利宣言したのだ。
表彰式が行われる18番グリーンまで移動する間、「おめでとう!」と大歓声に包まれた。この声援に手を上げて応えていた原だが、次第に込み上げてくるものが。「“おめでとう”といわれて鳥肌が立つとともに涙が出てきて…」と、自分でもいつ以来か思い出すのが難しいくらいの涙が頬を伝った。
いつも師匠に「まだまだだな」と愛情混じりに厳しい言葉を投げかけられていたが、ようやく掴んだ初勝利。お褒めの言葉がいただけると思いきや、会場に届いた言葉は「ラッキーで勝つことはある。大事なのは2勝目を捉えにいくこと」と、単純な祝福ではなかった。「それはそうなのかもしれないので」とちょっぴり苦笑いも、「スキップしながら“勝ちました〜”って報告に行きたいですね」とニヤリ。やはり、この20歳。ただ者ではない。(文・秋田義和)
<ゴルフ情報ALBA.Net>