今回開催された「宮里藍インビテーショナルsupported by SUNTORY」は、プロが参加するジュニアイベントのなかでも珍しいものとなった。試合に加えてプロがジュニアに技術的なことを教えるレッスンがあるのはよくあるが、そういったレッスンはなし。その意図について宮里藍はこう説明した。
これは16年前…2003年日本女子OPにて、18歳の横峯さくらと宮里藍【写真】
「スイングとか技術的なものはそれぞれコーチもいますし、彼女たちはそれに対する時間というのはものすごく費やしてきていると思う。逆に言えばそれ以外のこと、ゴルフのアプローチの仕方、ゲームに対しての視野を広げるということが、あの年代はすごく大事なのかなと思って意識しています」
とはいってもただ試合だけを行ったわけではない。替わりに取り入れられたのが『Vision54』を通じたメンタルトレーニング。改めて『Vision54』を簡単に説明すると、宮里以外にもアニカ・ソレンスタムらが取り入れたメソッドで、「18ホールでバーディーを奪えば、スコア54だって達成できると信じる。その可能性を信じれば潜在能力を発揮できる」という考えが根本にある。プレー面では、毎プレーごとに考える時間の「思考ボックス」と、決めた後の実際にプレーする「実行ボックス」とに分けて、考える時間を分断して迷いを消すといった思考法などを用いるメソッドである。
今回のイベントに『Vision54』を取り入れた理由について、宮里はイベント開催前のSNSでこう綴った。
「私がアメリカで12年間戦えた理由の一つとして、メンタルトレーニングをあげます。ゴルフというスポーツはとても複雑で、メンタルスポーツだと言われてるにも関わらず、そこへのアプローチが難しく、環境も整っていません。技術的な事やフィジカルに関しては情報がどんどん進み進化していく中で、メンタルトレーニングだけは遅れを取っている印象です。そこで、早い段階でどういうアプローチの仕方があるのか、多くのジュニアに触れて欲しいといった思いが常にありました」
また、「色んな角度からその選手を見て、その選手に合ったコーチングをしてくれるので、決して型にはまりません」という一文も。多くのジュニアゴルファーに“コーチ”がつくなかで、その指導の邪魔をすることなく、且つ自身がとても大事だと感じたメンタルトレーニングについて学んでもらうことが狙いだった。
宮里がメンタルトレーニングを相当に意識していたのは、プログラムからも明らかだった。自身も師事した『Vision54』のピア・ニールソン、リン・マリオットの2人を呼んだことはもちろん、練習ラウンドとなるイベント初日にレッスン。それを踏まえた試合初日を終えた後に1時間とってフィードバック、そして試合2日目に向けたレッスンと2段階に分けた。ただの座学でなく、学んで、プレーして、振り返る。一連の流れを学んでもらうことができるように組まれていた。
中学生、高校生という年代もとても大事だ。「色々なことが入ってくる前に、これから彼女たちが受けるであろうプレッシャーにも備えて、早い段階で自分とゴルフの具体的なことを知るスキルをVision54を通じて学んで欲しいと思った」。つまり、彼女たちがプロになったときのことまで見据えて、今回のイベントは考えられている。
また、参加したジュニアゴルファーの親への取り組みも宮里ならではだった。同じく練習ラウンドとなった初日に講習会を行うと、イベント最終日となる試合2日目にも子どもがプレーしている間に講習会を行った。
「サポートする親御さんも難しいと思うんですよね。私もそうでしたが、プロになるのかどうか、ゴルフをどうワンランク上げるのか。親御さんは時として、コーチとはまた違った微妙な立場になるときがある。みなさんで情報共有して、どうすればいいのかの力になれればと思いました。私は親ではないので自分の経験を元にお話しさせていただきましたが、すごくいい時間だったと思います」
こうした自身の考え、経験をふんだんに取り入れたイベントは無事にすべてのプログラムを終了した。試合で優勝し、『宮里藍プロとのエキシビションラウンド』、『宮里藍サントリーレディスの予選会への出場権』(こちらはスコア上位5名)の権利を掴んだ東北高校の2年生・鶴瀬華月は「いつもはメンタルが弱くて決断力もない自分ですが、とても勉強になりました。初日を終えた後にフィードバックできて、まだ思考ボックスでしっかり決断できていなかった。それを2日目に意識したらかなりできるようになりました」とメソッド、そしてフィードバックの大事さを、試合を通じて学んだ様子だった。
一方、自身初となる冠のイベントを終えた宮里は「プロとなっての14年間で学んだことをシェアしていきたいと思って、引退してからジュニア大会をやりたかった。実現して一人一人がパフォーマンスを上げていく吸収力がすごくてとてもうれしかったです」とこちらも手応えは十分だった。
来年以降も開催するかは未定だが、今回行って一番良かったこととして挙げたのが現状を把握できたこと。「まずはどういったジュニアの選手がいるのか、どれくらいのレベルなのかを把握できていなかった。ジュニアの環境を含めて知れたことが大きい。そこが分からなければレベルアップしてもらうためにどうしていいかも分かりません。まず第一歩目として状況を知ることができたのは大きかった」と今後に向けた情報収集としても、開催した意味合いは大きかったと話した。
ただ漠然と、ありきたりなジュニアイベントを行うのではない。ツアー引退から1年。宮里らしいやり方で、ゴルフ界に貢献、そして恩返しをしようと一歩ずつ進めている。
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