一般アマチュアゴルファーは、同じ40m/s程度というヘッドスピードが近い理由で女子プロを参考にした方が良いと言われているが、参考できるのはスイングだけではない。女子プロたちも我々アマチュアと同じように「球が上がらない」など多種多様の悩みを抱えていて、それを矯正しているのは、スイングだけでなく14本のクラブたちなのである。
アマが真似したい菊地絵理香のピッチエンドラン【連続写真付き解説】
そこで、女子プロたちがクラブセッティングにしている、ちょっとした工夫=スパイスをピックアップ。クラブ選びの参考にしてきたい。今回は女子プロたちの寒さ対策について。
今月上旬、日本で行われた米ツアー「TOTOジャパンクラシック」で6位タイに入った菊地絵理香。トップ10という好プレーを見せた裏で「寒い時季になってきたので、6番アイアンを抜いて6番のUTをいれました。距離が残り、手前から攻めるホールがあるから、ユーティリティは攻めやすい。スコアもまとまる」と冬向けのセッティングが功を奏したと話した。
冬用のセッティングといえば、昨年の賞金女王アン・ソンジュ(韓国)は10月の「NOBUTA GROUP マスターズGCレディース」で優勝した際、「夏の芝と秋の芝はちょっと変わる」とそれまでに4勝を挙げていたモダートの『SDウェッジ』からミズノプロの『S18ウェッジ』にスイッチ。賞金額の高いビッグトーナメントを制してマネークイーンへと駆け抜けたことが記憶に新しい。
寒さ、芝など様々な条件が変わる冬ゴルフに対して、菊地やソンジュのようにクラブセッティングを変えることでスコアにつながるケースは少なくない。ということはアマチュアもクラブを変えたほうがいいのでは、という気もしてくる。一方で使い慣れたクラブのほうがいいという気も…。そんな冬ゴルフ対策をプロコーチ&クラブフィッターの筒康博氏に聞いた。
筒は冬の難しさについて改めていくつか例を出す。「冬はゴルファー自身の出力が低下します。シーズン中に使っていたベストスペックのシャフトが硬く感じたり、適正なロフトのドライバーが上がりづらく感じたり、着膨れなどでクラブ長さに違和感が生じたりスイングの妨げがたくさん出てきます。もちろん皆さんも実感済みだと思いますが、気温が低くなりボールが飛ばなくなりフェアウェイの芝も薄くダフリ、トップを誘発します」などを挙げた。
そういったゴルファーにとっては様々な要因がスコアメイクを低下させるが、筒は続けて「防寒対策などの体のケアを始め、クラブ選びで実はベストスコア更新のチャンスも十分あると僕は考えています」という。
「どういうことかというと、覚悟が決まるぶんというかそうせざるを得ないケースが増えるので、気候と体に合ったクラブセッテイングとスイングがしやすくなります。当然『腹8分』のコースマネージメントも理解する事ができるので、終わってみるとベストスコア更新なんてことも可能になります」
では、そのためにはどうすればいいのか。「冬はクラブセッティング、スイング両面で自分の『ボトムライン』、すなわち最低限できることを見つけるいい機会。今回の菊地選手のようにグリーンを狙うためのクラブ選びのテーマが明確になったりするはずです」。できることが限られるからこそハッキリする。それがいい方向につながる可能性は少なくない。
例えば菊地のようにグリーンを攻めるクラブ1つ取ってもそうだ。「冬ならではの強風対策ならアイアンやアイアン型UTが活躍する場面が多くなるでしょう。薄い芝からしっかり距離を出すという点では、ミスヒットに対する寛容性の大きなウッド型UTの本数を増やす対策が有利になります」。一概に“冬ゴルフ”といっても寒いのか風が強いのか。芝がはげ上がっているのか。コンディションによって使うべきクラブは変わってくる。
だからこそ、スタートするまでに14本以上のクラブを選択できるようにしておくといい。
「芝が薄いことによってトップが増える人、あるいはダフリが増える人の両方がいると思います。ウェッジ選びでいえば、普段使っているバウンスが異なるものをセットアップしていると対応しやすくなります。ロフトピッチが離れている人は間に1本追加しておくことも有効ではないでしょうか? フェースを開いたり閉じたりなどの応用がミスを誘発しやすい時季なので、ロフトでカバーするのが主な狙いです。手がかじかむパターも鈍感になります。例えば好調時はブレード型でうまくいっている人でもオートマな大型マレットのパターをサブで用意したり、太さの異なるグリップを装着したスペアパターを持って冬使用パターを準備しておくのもいいと思います。理想でいえば、冬仕様クラブセットをもうワンセット持って当日に合わせたベストメンバーをつくって欲しいくらいです」(筒)
冬に合うクラブは分かった。とはいえいつも使っているクラブとどちらがいいのか。判断基準が欲しいところ。「冬に対する気候的な苦手意識の違いで多少は変わると思います。クラブセッティングの観点でいうと、絶好調に近い自分に基準を置いたクラブセッティングを行っている方は練習量が伴わない限り冬仕様のセッティングは必須です。一方、練習頻度が少ない方や自分の基準をあらかじめ低めに設定している方はシャフトスペックよりヘッドスペックを優しくした番手をセットアップしておくといいと思います」。つまり自分のポテンシャルギリギリのセッティングを春先から使っていたゴルファーは冬用を考えたほうがいいということ。
「冬ゴルフはスーパーショットの追求よりも戦略を楽しむ絶好の時季」と筒はいう。「寒いからやめよう」となる前に“冬ゴルフ”らしい楽しみ方、クラブの選び方を見いだすことで自分の特性を知ることができる。そうなると春先から違いが出せそうだ。
解説・筒康博(つつ・やすひろ)/プロコーチ・フィッター・クラフトマンとして8万人以上のアドバイス経験を生かし、現在は最先端ギア研究所『PCMラボ』総合コーチ、インドアゴルフレンジKzヘッドティーチャーを務める。ALBA本誌ギア総研をはじめ様々なメディアでも活躍している。
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