トーナメント会場にいる関係者のなかで、一番近くでプロゴルファーのプレーを見ているのがプロキャディ。そして唯一ラウンド中にプロへアドバイスを送れる存在でもある。そんなプロキャディだからこそ、我々アマチュアゴルファーのスコアアップにつながる“アドバイス”を知っているのではないか。今回は申ジエ(韓国)の専属キャディを務める齋藤優希氏。
■申ジエはパター命、丸山茂樹はベルトだけで50本用意!?
自粛期間中は、栃木県にある自宅でのトレーニングや、「勘が鈍らないように」と近くのゴルフ場で人との接触を避けながらプレーするなどして新シーズン開幕を待った齋藤キャディ。昨年、ジエが鈴木愛、渋野日向子らと激しい賞金女王争いをする姿を近くで見てきた人物に、この元世界1位のこだわりについて聞いてみた。
「申ジエプロは、とにかくパター命。これを生命線と考えていて、そのこだわりも強いです。ラウンド前の練習でも、ショットに関しては10分ほどで切り上げ、練習グリーンに多くの時間を割きます。その日のグリーンの状況を見極め、パターに鉛を貼ったり、はがしたり。細かい調整をしたうえでコースに出ます」
道具のメンテンナンスからも、その気持ちがうかがえる。パターのグリップについては「2試合に1度交換」。長年キャディを務めてきた齋藤氏といえども、女子でここまで頻繁に替える選手は見たことがないという。“手になじませる”という感覚や、ましてや“ゲン担ぎ”などは存在せず、優勝した翌週でも躊躇(ちゅうちょ)なくチェンジする徹底ぶり。「勝ったパターに次の週に手を加えるということに最初は驚きましたけど、本人は『優勝したことは何も関係ありません』とほほ笑むだけです(笑)」。これが日常の一コマだ。
またパター以外のクラブに関しても、こんな思いを持っていることも教えてくれた。「新しいクラブは積極的に試して、すぐに試合でも使います。練習で少し打ってみて、いいと思ったら、平気で“ぶっつけ本番”。『試合で使わないと意味がないでしょ?』と、一度本番で使用してみて、そこから本格的な調整を始めるのが申ジエ流ですね」。クラブ契約フリーのジエは、ギアを見極める目にも定評があるが、何よりも大事にしているのが「新しいものを使うのがプロ」という矜持だという。「いつも驚かされますが、多方面への気づかいを常にしている選手ですね」と、齋藤氏もその意識には感服するばかりだ。
齋藤氏は、かつて丸山茂樹のバッグを長年担いでいたことでも知られる。そこで日米通算13勝を誇る実力者のこだわりについても聞いてみた。すると「溝へのこだわりが強くウェッジは2試合ごとに交換」、「ボールは1ホールにつき1個」、「スパイクは常に20足ほど持っていき、色も含めその日の状態によって履くものを選ぶ」、「ギャラリーに見られていることを意識し、ベルトも毎試合50本ほど持ち込む」など次々とエピソードが飛び出してくる。アマチュアゴルファーにはマネできないことも多いが、この両者の“プロ意識”というものに触れることができる話といえる。
■風を読むことは重要! でも神経質にはなりすぎないで
続いて齋藤氏に、アマチュアゴルファーへのヒントとしてプロとともにコースマネジメントをする際、どんな点に注意しているのか?という質問をしてみた。すると、真っ先に出てきた言葉が『風』だった。
「私がキャディとしてコースに出る時、一番気にするのが風です。北から吹いているのか、南からなのか。それを1ホール1ホールチェックしていきます」
スタート前には、天気予報とにらめっこし、「時間ごとに基本となる風の方角を頭に入れています」。あとはプレー中にコースの全体図や、方角などホールロケーションが記載されているヤーデージブックを見ながら、状況を分析していく。
ただアマチュアゴルファーがラウンドする時は、コースの全体図が分かるこういった資料は持っていないことがほとんど。そんな時は、「おおまかに天気予報で基本的な風の流れを把握し、あとはクラブハウスや、外の建物など何か分かりやすい目印があれば、それを基準に風向きを考えてもいいかもしれません」という助言が送られた。
その一方で、こんな“アドバイス”も。「プロは風が最終結果に大きく影響するため神経を使う部分でもあります。でも普段のラウンドであまり細かく読もうとすると、そればかり気になってスイングに狂いが出てきてしまったり、逆に悪影響を及ぼすことも十分に考えられます。なので、よほど強い場合や、風が大きく影響する場面以外はあまり神経質にならず、プレーに集中する、という気持ちでいいと思います」。風は重要! だがそれに惑わされすぎると本末転倒な結果に終わるかも…、そんなことを意識しておくのも大事かもしれない。
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