本来なら今週の米ツアーは創立50周年を迎える「ジョン・ディア・クラシック」が華々しく開催されるはずだった。しかし、コロナ禍で同大会は「無観客なら開催する意味はない」として中止を決定。期せずして空き週となった今週を埋めるため、急きょ創設されたのが「ワークデイ・チャリティ・オープン」だった。
翌週の「メモリアル・トーナメント」と同じミュアフィールド・ビレッジを利用して2週連続同一会場という奇策を採用。米ツアーの臨機応変な対応は、いつもながら見事だ。
そして、試合展開も優勝争いも実に見事で面白かった。初日から好発進を切った松山英樹は残念ながら徐々に失速し、22位タイに終わったが、松山のみならず、これからのゴルフ界を担う若い力が着実に芽吹いていることを強く感じさせられる大会だった。
3日目終了後、首位に立ったのはジャスティン・トーマス。2打差の2位にはビクトル・ホブラン、3打差の3位にはコリン・モリカワがつけていた。
トーマスは27歳の米国人で通算12勝。ホブランはノルウエー出身で22歳のルーキーながら今季のプエルトリコ・オープンで初優勝を挙げたばかりだ。そしてモリカワは23歳の米国人で、昨季のバラクーダ選手権を制し、すでに1勝を挙げている。
そんな3人が最上段を締めたリーダーボードは「これぞ、ゴルフ界の未来だ」。米メディアには、そんな見出しさえ踊っていた。
いざ、最終日。ホブランはスコアを伸ばし切れず、優勝争いはトーマスとモリカワに絞られていった。2人の差は徐々に縮まり、終盤の流れは完全にモリカワに向いていた。
72ホール目の18番。フェアウェイもグリーンも捉えられず、寄らず入らずのボギーを喫したトーマスのプレーは、まったく「らしさ」を欠いていた。
ついにモリカワに並ばれ、プレーオフへ突入。1ホール目で15メートルのバーディパットを沈めたトーマスは見事だったが、直後に7メートル半を沈め返したモリカワは、もっと見事だった。
2ホール目。モリカワはバーディパットをわずかに外し、ピンチになった。が、トーマスも外して救われた。ここでも流れはモリカワにあった。
そして3ホール目。トーマスの「らしさ」は、いよいよ失われ、ティショットは右ラフへ、セカンドは出すだけで3打目もピンに付かず、パーセーブもできず。モリカワは楽々パーで、最後はあっさり勝利。米ツアー24試合目で通算2勝目はジョン・ラームやローリー・マキロイらを凌ぐスピード出世だ。
この日、モリカワがメジャー・チャンプのトーマスを凌駕できたのは何のおかげだったのか。若さや勢いは明らかにモリカワにある。追われる者と追う者。プレッシャーは常に追われる者にあり、追う者には「失うものは何もない」という捨て身の強ささえある。
その通り、昨季、スペシャル・テンポラリー・メンバーにして「バラクーダ選手権」を制したときのモリカワは捨て身の強さを発揮して勝利した。だが、その1勝を引っ提げていたモリカワの今週の強さは、もはや捨て身ではなく、きわめてポジティブな彼のメンタル面がモノを言っていたように思う。
米ツアー再開初戦の「チャールズ・シュワブ・チャレンジ」では、やはりプレーオフに絡み、ダニエル・バーガー(米国)に敗れた。先週の「トラベラーズ選手権」ではキャリア初の予選落ちを喫し、プロ入り以来22試合連続予選通過の記録が途絶えた。傷心の出来事が続いていたが、彼は決して笑顔を絶やさなかった。
「予選落ち後は速攻で帰宅し、彼女とリラックスして過ごした。リフレッシュして、リセットボタンを押したら自然とポジティブになった。何をどう良くできるだろうかと考えたら、スイングの際の体のローテーションに関して、ひらめいたんだ」
米国のTV解説者は「モリカワはタイガー・ウッズに次ぐアイアンの名手でパットも上手い。それが勝因」と解説していた。
だが、アイアンとパットの上手さならトーマスにもそのまま当てはまる。彼らなら技術的な上手さは備わっていることが大前提だ。
本当に勝敗を分けたものは、持てる技術を効率的にタイムリーに発揮するためのメンタルであり、ポジティブであり続けたモリカワが醸し出すオーラが、トーマスにプレッシャーをかけ、結果的に運も流れもモリカワへ向いていった。
「僕はチャンスに勝っただけだ」
モリカワのその一言が、すべてを物語っていた。そんな優勝争いは実に見ごたえがあり、モリカワのこれからが楽しみになった。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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