最新ゴルフニュース

ウッズ、ニクラス、そしてラーム【舩越園子コラム】

米ツアー再開6戦目となった「メモリアル・トーナメント」は、2月の「ジェネシス招待」以来、5カ月ぶりに試合に出場したタイガー・ウッズに注目が集まっていた。
過去5勝を挙げている相性抜群の大会で、いきなりの優勝もあり得るのではないか。そんな期待が寄せられたなか、初日は18位タイと好発進した。が、腰痛を発症した2日目に「76」と崩れ、「年を取った」と悲哀を漂わせた。
からくも予選を通過して臨んだ土日は好調なショットが戻り、笑顔も取り戻した。とはいえパットが入らず、最終的にトータル6オーバー・40位タイに終わったが、ウッズは明るい表情で4日間の感想を語った。
「練習で回るのと試合で回るのは全然違う。予選通過できたことは幸運だった。再び4日間を戦い通すことができた。久しぶりの復帰戦としては厳しいコンディションだったが、試合の感覚や流れを体で感じることができ、たくさんのポジティブを得た」
こう言って笑顔を見せたウッズは、もう1つ「ポジティブ」という言葉を口にした。
「彼らが今、健康な状態でこの場にいることは、ポジティブ以外の何ものでもない」
ウッズが言った「彼ら」とは、大会ホストのジャック・ニクラスとバーバラ夫人のこと。3月に新型コロナウイルスに感染していたことをニクラスはこの最終日に初めて明かし、仰天させられた米メディアは一斉にその事実を報じたが、ウッズは以前から知っていたそうだ。
ニクラス夫妻は今年3月に咳や喉の痛みを覚え、PCR検査を受診。ニクラスは4度、バーバラ夫人も3度受けて、結果はすべて陽性だった。そのため4月20日までフロリダの自宅にこもり、治療を受けていた。夫妻は、ともに80歳の高齢だが、無事回復し、このミュアフィールド・ビレッジへとやって来た。
そして開幕前、ニクラスは「私は優勝者に歩み寄り、握手をする」と主張して世界的に物議を醸した。英国紙などは「馬鹿げた発言だ」と激しく批判していたが、ニクラスは「私は優勝者にウイルスを与えない」と言い切っていた。それは自分には「抗体がある」という意味だったことが、ようやくわかった。
とはいえ、安全性の保証はどこにもない。ニクラス自身、「優勝者が握手を拒んだら、グータッチでもエルボータッチでもいい」と言っていた。
そしてその「優勝者」となったのは、スペイン出身のジョン・ラームだった。最終日は強風と断続的に激しい雨に見舞われ、小1時間のサスペンデッドも挟んだほどの悪コンディション。選手たちが軒並みスコアを落とすなか、ラームが前半2つ伸ばして2位との差を8打まで広げ、独壇場と化した。
しかし、後半は10番でボギー、11番でダブルボギー、14番でボギーと乱れた。パー3の16番ではラフからのチップインバーディを奪ったつもりだったが、ラフの中で動いたボールをそのまま打ったことが指摘され、2罰打を科せられてボギーとなった。だが、それでも2位に3打差で余裕の勝利。米ツアー通算4勝目、世界10勝目を挙げた。
ニクラスはラームに歩み寄ったが、戸惑いが芽生えたのか、差し出した右手をグーにしたり、パーにしたり。そしてラームはグーを差し出し、結局、2人はグータッチをしていた。だが注目すべきは、握手か、グータッチかではなく、ラームがローリー・マキロイと入れ替わり、弱冠25歳にして世界ナンバー1に登り詰めたことだ。
「世界一になることは、13歳、14歳ぐらいからの僕のゴールだった」
米アリゾナ州立大学へゴルフ留学した当初は英語もわからなかったが、米国人の恋人ケリーが懸命に支えた。2016年にプロ転向後、喜怒哀楽は激しいものの、17年から毎年1勝ずつを挙げ、戦績は高いレベルで安定している。ケリーは妻となり、私生活面も安定。だが、コロナ禍では母国で暮らす親族を「2人も失った」と深い悲しみも抱えている。
だからこそ、ゴルフで頑張り、グッドニュースを届けたいとラームは言う。
「世界一になり、スペインの歴史に加わったことを、僕自身、楽しみながら、これからも頑張っていきたい」
ウッズに沸き、ニクラスに揺れ、いろいろあった1週間だったが、最後はスペイン語で母国の人々に挨拶をした勝者ラームの姿が眩しく輝き、本来のゴルフの大会の「祭りのあと」の空気が漂っていた。
文/舩越園子（ゴルフジャーナリスト）
<ゴルフ情報ALBA.Net>