米ツアーの3Mオープンは、トラベラーズ選手権を制したばかりのダスティン・ジョンソンが初日に78を叩いて棄権したり、つい最近まで世界ナンバー1だったブルックス・ケプカが予選落ちを喫したりと、その始まりから混沌とした様相を呈していた。
その傍らでは、コロナ禍ですっかり存在感が薄れていた新ツアー構想のPGL(プレミア・ゴルフ・リーグ)が再びアクションを起こしていることが米メディアによって報じられ、にわかに騒々しくなった。
ドナルド・トランプ米大統領が2014年に手に入れたスコットランドのトランプ・ターンベリーで「全英オープンを開催すべく英国政府側に根回ししている」ことも米メディアによって報じられ、さらに騒々しくなった。
そして、トランプ大統領はこれを否定し、事態は一層騒々しくなっている。
通算83勝目が期待されているタイガー・ウッズは、来週の世界選手権、フェデックス・セント・ジュード招待には「出ない」と発表。先週のメモリアル・トーナメントで腰痛を発症したばかりゆえ、「ウッズの腰は大丈夫なのか?」と世界のゴルフ界に不安が広がった。
だが、ウッズのツイートを見て、ほっと胸を撫で下ろしたファンは多かったはずである。
「フェデックス・セント・ジュード招待を欠場するのは残念だが、それは全米プロとプレーオフ・シリーズを戦うためには必要なんだ」
44歳になった今、以前よりパワーが落ちていること、持久力が激減していることは、ウッズ自身が認めている。その現実を見据えた上で、メジャー大会とプレーオフに備えるために世界選手権出場は見送るという決断には、ウッズの未来への意欲が感じられ、「それならOK」と安堵できた。
そして3Mオープンのサンデー・アフタヌーンには、さらなる安堵を得ることができた。
最終日はリーダーボードの上方に10人以上の選手が僅差でひしめいていた。マスターズ覇者のチャール・シュワーツェルは手首の故障からの復活ぶりを披露。今季、何度も優勝争いに絡んでいるトニー・フィナウは、またしても勝利には一歩及ばなかったが、「フィナウなら、いつ勝ってもおかしくない」という印象は強まりつつある。
最終日に猛追をかけてきたアダム・ロンやチャールズ・ハウエルらも、華やかとは言い難いが、実力派であることは間違いない。
多彩な顔ぶれが好プレーを披露していた中、最終日を首位で迎えたマイケル・トンプソンは終始、安定したゴルフを貫き、72ホール目を余裕のバーディーで締め括って通算2勝目を挙げた。2013年ホンダクラシック以来、7年ぶりの勝利となった。
「今日の僕は、本当に賢明なゴルフをすることができた」
その言葉は、勝利から遠ざかっていたこの7年間、トンプソンがどれだけ悔やまれるゴルフをして、どれだけ悔し涙を流してきたかを物語っていた。
安定したスイングが得られるよう試行錯誤を繰り返したが、ゴルフでは「なかなか勝てず、フラストレーションが溜まった」一方で、養子縁組をして愛妻と子どもたちがいる幸せな家庭を築き、私生活の安定に努めてきた。
だが、ゴルフと家庭の双方で満足が得られなければ、充実した人生にはならないことは、トンプソン自身、痛いほど感じていた。米ゴルフ界で聞かれる「1勝目は運もある。2勝目を挙げてこそ本物」というフレーズが何度も木霊して聞こえ、プレッシャーになっていたという。
「(今日までの日々は)長かった。今、この場に妻と子どもたちがいないことが淋しい。妻はずっと僕を信じ続け、支え続けてくれた」
込み上げる想いを抑え切れず、トンプソンは何度も言葉に詰まり、そのたびに涙が溢れ出した。7年の歳月を経て、ようやく2勝目を挙げ、「本物」であることを実証したトンプソンに、思わず、もらい泣きさせられた。
米ゴルフ界は何やら混沌としているが、その中でも底力を備えた素晴らしき選手たちがいて、素敵な復活のドラマが見られたことは、米ゴルフ界の未来も開けているのだと感じられ、そこに大きく安堵できた最終日だった。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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