「ライフは素晴らしい。ゴルフはとても難しい」とは、ゴルフ界の偉人が残した名言というわけではない。米ツアーは早くも新シーズンが開幕。その2戦目としてドミニカ共和国で開催された「コラレス・プンタカナ・リゾート&クラブ選手権」を制し、通算2勝目を挙げた33歳の米国人、ハドソン・スワフォードが感極まりながら口にした言葉だ。
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ジョージア大学を卒業後、2011年にプロ転向したスワフォードは、下部ツアーを経て、2014年に米ツアーに辿り着いたが、目立った成績は皆無に近い日々。だが、地味に、地道に、米ツアー選手として戦い続けていた。
初優勝を挙げたのは、それから3年後の2017年。シーズン序盤の「キャリアビルダー・チャレンジ」(現ザ・アメリカンエキスプレス)を制し、初めてスポットライトを浴びた。
その年の春、「マスターズ」に初出場。結果は予選落ちだったが、「夢が1つ叶い、心躍る春だった」。その夏、初めて世界選手権シリーズの「ブリヂストン招待」に出場。2日目の15番でホールインワンを出し、大きな注目を浴びた。そのとき手にしたのは6番アイアン。「僕が一番信頼しているクラブ」だった。
振り返れば、その2017年は彼のそれまでの人生で最も輝いた最高の年で、右足の故障が悪化した2018年からは、彼のキャリアは下降線を辿っていった。
だが、スワフォードは再び上昇し、3年ぶりに勝利を挙げた。彼の復活を支えたものは何だったのだろうか。
シードを失い、公傷制度に頼って臨んだ昨季は「とても苦しいシーズンだった」。7月には右足の手術を受けた。実母が乳がんと診断され、母の回復を祈りながら、乳がん撲滅のためのチャリティ活動にも参加するようになった。ゴルフを知らない子どもたちにゴルフに触れる機会を授け、ゴルフを活用して育成を図る「ザ・ファースト・ティ」の地元機関で愛妻キャサリンが働いていることもあり、スワフォードも地域の子どもたちと積極的に交流してきた。
自分のゴルフが不調に陥ったときでも、そうやってスワフォードは大切なものを守り、信じるものを信じ続け、「人生は山あり谷ありだ」と自分に言い聞かせていたという。
彼のそんな生き方は、まさに彼のゴルフにそのまま反映されている。今大会で初日を首位タイで発進したスワフォードは、黙々と練習を重ねてきたことが「いつか必ず報われると信じていた」。
10番からスタートとした2日目は、11番でスズメバチに手を刺され、そこから先は出入りの激しいゴルフになった。だが、最後は3連続バーディで締め括り、単独首位へ。ラウンド中、絶えず痛みが走ったそうだが、「おかげで、ゴルフのことを考えすぎることなく一打一打に集中できた」。きわめて前向き。何ごとにも感謝。そんな彼の人柄が、アクシデントをも生かすことにつながった。
最終日の優勝争いは混戦状態だったが、スワフォードは17番(パー3)でピンそばを捉え、バーディを奪って単独首位へ浮上。決め手の一打を放ったのは、またしても6Iだった。「6Iなら打てると信じていた。僕は、このクラブで、このショットを何百回も何千回も練習してきたのだから」。信じるものがあったからこそ、ここぞという場面で生かすことができた。
18番はファーストパットを打ちきれず、きわどい2mを残したが、しっかり沈めてパーで勝利。今週、一度も3パットせずに回っていた彼は「だから、きっと入れられる」と信じ、その通り、クラッチパットを見事に沈めて勝利した。通算2勝目。そして2021年「マスターズ」出場資格も得られ、彼の人生には再び夢のような春が訪れる。
下降線を辿っているときは、焦ったり、もがいたり、投げやりになったりしがちだが、スワフォードは「上れば下り、下れば上る」と信じ、黙々と歩み続けてきた。
「ライフは素晴らしい。ゴルフはとても難しい。でも、山谷を潜り抜けることは楽しい」
スワフォードのこの優勝の言は、ゴルフ史に残る名言には、きっとならないだろう。
だが、地味で目立たない存在だった彼のこの言葉こそが、大半の米ツアー選手たちの生きざまや胸の内を見事に言い表した名言だと私は思う。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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