東日本大震災ではコースやクラブハウスに甚大な被害を受けた福島県のゴルフ場も、10年が経ち、傷が癒えてきた感がある。
しかい、震災から立ち上がってきているところを昨年の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、大きな損失を受けたところも少なくない。密になりにくいとゴルフが脚光を浴びているように見えるコロナ禍だが、コースは再び難局を迎えている。
■郡山熱海カントリークラブ(郡山市)
万葉集にも歌われた名山・安達太良山に連なる安達太良連峰の眺望も楽しめる郡山熱海カントリークラブ(郡山市)は、福島県の中通り(中央)に位置する。支配人の赤井義徳さんは特におすすめのプレー時期について、「落葉樹が多くて、紅葉の季節のプレーが特におすすめなんですよ。紅葉の中でのプレーが人気です」と胸を張り、コースレイアウトの良さから「うちでプレーしたら絶対にうまくなりますよ!」と太鼓判を押す。
2月13日の午後11時過ぎに起きた地震では物が倒れるなどの被害にとどまり、きょう13日の本オープンに支障はない。10年前の震災当日はというと、第一声は「当時は大変でしたね」。翌日のオープンに備えて準備中のところを大地震が襲い、厨房で仕込み中のカレーがあたり一面にこぼれた。耐震性の高い構造のクラブハウスは無事だったものの、特に自慢の9番と18番ホールの被害がひどく、カート道や敷地内の道路も陥没した。自社で復旧に勤しんだが、ゴルフ場へ来る途中の主要道路が土砂災害に見舞われて復旧に時間がかかり、営業できるまでに1カ月以上かかってしまった。
何より一番の被害は福島第一原発の事故だった。放射能汚染が気になり敬遠される中、赤井さんがうれしかったのは、「支援を兼ねてプレーに来ました」と関東圏からの常連客が応援に来てくれたこと。震災前の感じに戻ったと感じられるようになるまで「感覚的には2年ほどかかりましたかね」。
放射線量に問題ないことを各方面にアピールしながら、プレー代を下げる営業努力もするなど営業を軌道に乗せた。そして近年は、「震災のことは気にしなくてもいい営業状況になりました。それが昨年の4、5月にはコロナの影響で厳しくなり、2カ月ほど弁当付きのスループレー営業に切り替えたのです」。毎年行われる地元の優良企業の貸し切りコンペもなくなったりと、業績に影を落とした。
震災直後は避難指示区域から避難してきた人たちが気晴らしに訪れることも多かったという。放射能の風評被害がひどかった時も、「年だから気にしない」とやってくる年配の人もいた。苦しい状況下の昨年も「家にいても仕方ない」とやってくる年配客に支えられ、コロナ禍で増えてきている若い客が来たり、夏前くらいから通常営業に戻したコースに人が戻ってきた。利用客が例年を超える月が出るなど後半にかけて盛り返しを見せたそうだ。
とはいえ県内のほかのコースでは、「関東からのお客様は遠慮して来られない印象があります」との声もある。厳しい状況が続いてることに変わりはないのだろうが、赤井さんからは、「震災は乗り越えて元気に営業しています。去年はコロナの影響もありましたが何とか持ちこたえています」と明るい声が返ってきた。
■グランディ那須白河ゴルフクラブ(西白河郡西郷村)
震災をきっかけに、2014年からスタートした男子レギュラーツアー「ダンロップ・スリクソン福島オープン」。同大会の前身にあたる「福島オープンゴルフ」から会場を長年に渡り務めるのは福島県西白河郡西郷村のグランディ那須白河ゴルフクラブ。雪によるコース閉鎖が終わり、1日から営業を開始している。
大会に使われるメンバーコースのほか、ビジターや予約なしでもプレーができるコースも完備し様々なプレーヤーに応じる。ツアー開催後は利用者から、「トーナメントコースですよね?」と聞かれることが増えた。地元のみならず、県外からのギャラリーにも楽しみにされる同ツアーもコロナのあおり受けて昨年は中止、本来なら7年目を迎えるはずだった。
「昨年は7年目の開催を予定していたダンロップ・スリクソン福島オープンも中止となりました。しかし、震災時に大きな被害を受けたところから復活できたことを考えれば、今のコロナ禍も乗り越えられるものと思っています」。同クラブ担当者のメッセージからは、想像を絶する被害からコースが立ち直るのにツアー開催も大きな力添えになったことがうかがえる。
地震の被害はコースに大きなダメージを与え営業再開まで4カ月以上かかった。それまでの日々を取り戻す中で、同県白河市に工場を構える住友ゴム工業(ダンロップを展開)、日本ゴルフツアー機構(JGTO)から打診を受けた。「男子ツアー競技の活性化・男子ツアー競技が未開催の地域の方々にプロのプレーを間近で見ていただく場を作る・ゴルフで福島を元気にする、との趣旨で大会を開催するとお聞きし、弊社も協力する運びとなりました。14年から19年まで6年連続で開催し、地元のお客様をはじめ、県外のお客様にも観戦をお楽しみいただいております」。
地元企業の協賛数が多いなど地域密着型ともいえる同大会、コース側も地元アピールを欠かさない。開幕前日の夕方は恒例にもなった、「ふくしま交流のゆうべ」で県産の食材を使った料理を振舞い、選手らをもてなす。コロナ禍のため現時点での提供は未定だが、ゆうべが開かれるなら、「徹底した感染対策を行い実施したい」と期待を寄せている。
「ことしは感染予防対策を万全に整えながら、ダンロップ・スリクソン福島オープンを開催することが決定しております。当ゴルフ場としても、ウィズコロナ、アフターコロナのゴルフ場運営の在り方を見すえつつ、お客様やプロの皆様が安全にプレーをお楽しみになれるよう、営業をしていきたいと考えております」。6月24日のツアー開催に向けてコース管理に余念がない。
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「震災から立ち直った」と支配人らがいう東北のゴルフ場に、今度はコロナという新しい難題が降りかかっている。東北に限らず、「これから地方のゴルフ場はどんどん厳しい状況になる」と危惧する関係者もいるほどだ。首都圏では緊急事態宣言が延長され、ゴルファーのラウンドの自由も奪われているような状況下、本当に一日も早い事態の収束を願ってやまない。
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