今年もゴルフの祭典がやってくる。4月8日に「マスターズ」が開幕。昨年はコロナ禍で11月に移ったが、今年は無事に4月に85回目を迎えようとしている。これまでの84の名勝負のうち、長年ゴルフ界を追ってきた編集者たちが思い出のワンシーンを振り返る。今回はゴルファーとして2ndQT進出という経歴を持ち、現在はALBA誌で編集を務める田辺直喜。
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「マスターズで名シーンを挙げるとしたら何?」。突如、舞い込んだ【編集者たち思い出のマスターズ】という企画に、過去の記憶を掘り起こしてみると、まず頭に浮かんだのは2003年に優勝したマイク・ウィア(カナダ)の姿でした。
当時の自分は高校生。時代はタイガー・ウッズ(米国)の全盛期で、マスターズも2001年、2002年と連覇を達成していました。それだけにマスターズに抱いていた印象は、飛距離も、技術も全部兼ね備えたスーパースターだけが優勝できる特別な大会というものでした。
そんな中で迎えた2003年大会。自分も含め、誰もがタイガーの前人未到の3連覇に注目する中、淡々とスコアを伸ばしてプレーオフに進出し、栄冠を掴んだのがウィアでした。「カナダ人初」、「史上初のレフティのマスターズ制覇」など、さまざまな言葉で形容されたウィアの優勝ですが、何より印象的だったのは、身長175センチほどの小柄な選手が“ショットの精度”を武器にマスターズを制したことでした。
正直なところ、ウィアは決して華のある選手ではなかったと思います。タイガーやフィル・ミケルソン(米国)といったスタープレーヤーに比べて、飛距離面では確実に劣っていたでしょう。しかし、腰の高さまでクラブを挙げる独特なワッグルから、完璧なオンプレーンスイングで正確なショットを打ち続けるそのプレースタイルは、当時プロを目指していた自分にとってひとつの理想に見えました。ラウンドでウィアのワッグルを真似たりしたのはいい思い出です。(自分のショットはウィアと違って曲がりまくりでしたが……)
マスターズという大会は、飛距離が出る選手が有利なのは間違いないですし、右打ちならドロー、左打ちならフェードと相性のいい球筋もたしかにあるでしょう。しかし、何より大事なのは自分のスタイルを確立していて、それを貫き通すことではないでしょうか。その意味でウィアは、自分のプレーを貫き通すことで、マスターズ優勝を果たしたわけで、今、考えても本当にかっこよかったなと思います。
2007年覇者のザック・ジョンソン(米国)や2015年覇者のジョーダン・スピース(米国)も飛距離の出るタイプではありませんでしたが、ウィアと同じく自分のプレーを貫いたからこそ、マスターズを制することができたのだと思います。もちろん、2005年のタイガーのような劇的な勝利も見ていてエキサイティングですが、ウィアやザック、スピースのような職人気質な選手のしぶ〜い優勝もまたマスターズの醍醐味。今年はどんな選手が、どんな試合展開で栄冠を掴むのか、今から楽しみです。(文・田辺直喜)
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