日本がゴールデンウィークを迎えている今週、米ツアーのバルスパー選手権には「休み明け」の選手たちが大勢出ていた。
彼らが取っていた「休み」とは、マスターズ後の春休みのこと。ジャスティン・トーマスもマスターズ直後から2週間のオフを取り、すっかりリフレッシュした表情でクラブを振っていた。
米ツアーのシーズンが前年の秋から翌年の秋までというサイクルに変わって以来、4月のマスターズは1シーズンのほぼ中間地点に位置付けられるようになったため、トッププレーヤーたちは「祭りのあと」に一旦休みを取り、張り詰めた心身を癒すことがパターン化している。
次なるメジャー、全米プロは今月20日から始まり、6月は全米オープン、7月は全英オープン、8月は東京五輪とプレーオフ・シリーズという具合に次々に続くため、マスターズ直後は、彼らが2〜3週間単位でなんとか休みが取れる貴重なタイミングなのである。
今年、マスターズを制した松山英樹は、最終日の翌朝の早朝便に乗り、あっという間に日本へ帰ってきた。素早く帰国したそのスピードとタイミングに関しては、「一刻も早く帰国して家族や友だちに優勝報告をしたかったんだろうね?」とか、「メディアの取材攻勢を避けたんじゃないの?」などなど、ファンのあいだからは、いろいろな声が聞かれた。「アメリカで祝勝会もやらずに帰国したのかな?」と不思議に思った方々もいた様子だ。
しかし、マスターズ後にすぐさま松山が帰国することは、米ツアーに正式参戦を開始した2014年からの彼の例年のパターンであり、今年のマスターズで優勝してもしなくても、彼は同じタイミングであっという間に帰国したはずである。
トーマスらと同様、松山にとっても「アフター・マスターズ」の数週間は、過密スケジュールの米ツアーのシーズン中になんとか休みが取れる貴重で希少なタイミングなのだ。ここで休まずして、いつ休めるのかという時期であり、これまでも彼はほぼ毎年、マスターズの直後に飛行機に乗り、太平洋を渡って母国へ帰っていた。
オーガスタ・ナショナルで4日間を戦い終えた直後の心身の疲労は想像以上に激しいはずだし、優勝争いを終えて宿舎に戻るのは夜の9時以降、優勝して会見等々をこなしたら宿に戻るのはすっかり夜中だ。それから大量の荷物を飛行機に乗せられるようにきっちり荷造りし、1〜2時間の仮眠を取れたらラッキーで、早朝便に間に合うよう日の出前には車に乗り込んで空港へ向かう。
もっと眠りたいと思うときでも、それが時間を最も有効に活用できる方法であれば、必死に迅速にやり遂げる。それは、松山が東北福祉大学時代にゴルフ部の阿部靖彦監督から教えられ、ずっと実践してきたことだ。
大学時代、日本の男子ツアーの秋の4大会に出場できることになったとき、松山はその合間に開催される学生の大会に出るべきかどうかを迷っていた。しかし、阿部監督は「オマエはまだ学生なのだから、学生の試合に出るのが本分。学生の試合に出られないのなら、プロの試合にも出る必要はない」と告げ、松山は「監督、わかりました。やります。全部出ます」と即答。そして、強行日程の全5連戦をやり遂げたのだそうだ。
「広大なアメリカ大陸を転戦する米ツアー選手になるためには、厳しい日程や移動をこなせる体力、気力を身に付けておかなければ、やっていけない」
そんな阿部監督の教えは、松山の胸にしっかりと刻み込まれ、だから今でも松山は決して時間を無駄にせず即行動する。それは、マスターズに勝てなかったあいだも、ずっと変わることなく行われ、そして彼は悲願の初優勝を遂げた今年も、これまでと同じように翌朝の早朝便に乗ったのだと思う。
過去のマスターズ後は悔しさをかみ締めながら黙々と荷造りをして帰国便に乗った。しかし今年は、大きな喜びを胸に抱き、グリーンジャケットを携えて帰国便に乗った。
日本で、しばしの「春休み」を満喫したら、松山はいつものように再びアメリカに戻るのだが、メジャーチャンプになったという自信を携えて米ツアーに戻ることは、いつもとは異なる。でも、彼はきっと今まで通り、コツコツ地道に鍛錬を続け、シーズン後半の激戦の日々にも淡々と挑むはずである。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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