史上初となる4日間競技で2日中止となった「資生堂レディス」は、鈴木愛の約1年半ぶりの優勝で幕を閉じた。2度目の賞金女王戴冠から一転、苦しいシーズンを送っていた鈴木が短期決戦を制することができたのはなぜなのか。上田桃子らを指導する辻村明志コーチが分析する。
■イレギュラーな展開への対応力は、ベテランに分あり
4日間一度も晴れた日がないという梅雨時期らしい戦いとなった今大会。初日と2日目は2度の遅延のすえに中止、3日目も2度遅延してようやく第1ラウンドがスタートできるというイレギュラーなスケジュールだった。
「こういう状況は特に気持ちを作るのが難しい。入れ過ぎてもいけないし、でもスタートのときには集中できるようにしておかなければいけない。そのあたりのメンタルコントロールはやはり経験豊富な選手に分がありましたね」と辻村氏が言うように、菊地絵理香、藤田さいき、全美貞(韓国)といった選手たちが上位に顔を出した。
■「右手首の角度が変わらない」卓越したウェッジが大崩れを防ぐ
そんな戦いを制したのが、これまで様々な激闘を乗り越えてきた鈴木だった。2019年の「伊藤園レディス」以来、勝ち星から遠ざかっていた女王は、第1ラウンドで1打差の2位タイにつけると、最終ラウンドの前半で3バーディを奪い首位に浮上。一度は西郷真央に抜かれたが、16番パー5の残り97ヤードの3打目を直接沈めてイーグルを奪取。久々の美酒に酔った。
何度も平均パット1位となったパッティングばかりに目が行きがちだが、ウェッジ使いにも卓越したものがあると辻村氏は言う。「アプローチにしても、ウェッジショットにしても縦距離を合わせるのが非常にうまい。それは10ヤード刻みの練習をたくさんして、自分の中でしっかりとした感覚を持っているから」。リカバリー率9位、パーセーブ率10位とハイレベルなショートゲームがあるからこそ、これだけ不調でも大崩れしにくい。
距離感が合う理由として辻村氏が挙げるのが右手の角度。
「アプローチでもウェッジショットでもボールに入っていくときの右手首の角度がずっと変わらないままです。だから、下半身、左サイドのリードから、右手首の角度をキープしたまま押し込んで、最後に回転で自分のスペースに振り込んでいける。そのときに右手首は解放されて伸びてしまったり、グリップエンドから抜けたりしません。だからボールをフェースに乗せて運ぶことができるんです」
■ショットもパットも「まだ本調子ではない」
鈴木は優勝スピーチで涙ながらに、優勝できなかった期間の苦悩を口にした。「こんなに長く勝てないと思っていませんでした。考えれば考えるほど、どういう風にプレーしていたか分からなくなった。成績や人のプレーをだんだん見られなくなった。自分がこんなに落ちぶれたんだと感じるのが怖かった」。年間7勝を挙げて無敵を誇った19年から一転、もがき苦しむ日々だった。
辻村氏は、強い鈴木を知っているだけに、今回の優勝を見ても「まだ本調子ではない」とハッキリと言った。
「見る限り調子が戻ったから勝てた、とは思えませんでした。ショットも良かった時のキレは見られなかったですし、パッティングの転がりも鈴木さんらしさはなかった。あのイーグルを奪ったショットも完ぺきとは言えなかった。それでも勝ってしまうのだから本当に勝負師ですし、鈴木さんの強さだと思います」
厳しい評価も日本ツアーを背負う選手として期待があるからこそ、だ。
「“バーディが良い薬”というくらいですから優勝はどれほど薬になるか。例えば青木瀬令奈さんはサントリーで優勝してから自信にあふれていて、ずっと上位で戦っています。鈴木さんも一つ勝ったことで肩の荷が下りるでしょう。この勝利の次にどうなるか非常に楽しみですね」
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利、阿部未悠などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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