東京五輪明け初戦となる「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」は小祝さくらの今季4勝目で幕を閉じた。日本列島を襲った大雨の影響で27ホールの短期決戦となった戦いで、なぜ不調が続いていたショットメーカーは優勝することができたのか。その小祝をコーチとして指導する辻村明志氏は、要因として五輪期間の過ごし方を挙げた。
■成績が出ないからこそ出る疲労、焦り
今大会の優勝を含めて今季トップ10入り回数2位(16回)の小祝だが、6月以降苦しい戦いが続いていた。5位に入った「宮里藍 サントリーレディス」以降、上位に入れない。それどころか前回大会で優勝した3試合前の「GMOインターネット・レディース サマンサタバサグローバルカップ」で予選落ちを喫してしまった。トップ10に入れない試合が続いたのは7試合。これは今季最長だ。今年初戦から1カ月で2勝を挙げた小祝に何が起こっていたのか。
「オフの宮崎合宿の成果もあって、(今年)最初の5試合は“良すぎた”と言ってもいいくらいの状態でした。ただ、やはり試合に出続けていて疲れも出てきていた。しかも成績がなかなか出ないので、精神的にもさらに疲れてくる。でも、本人としては成績が出ないから練習したい。そういった状況になっていました」
状態が上がらないなか、小祝から練習のお願いが来たときに辻村氏は、練習場ではなく別のところに誘った。「護摩焚きに一緒に行きました。それで何かが変わるわけではないですが、別のことをした方が心がスッとすると思いました。その後、気持ちが落ち着いたさくらと後半戦のことを中心にいろいろな話をしました」。小祝もモヤモヤが晴れたのか深くていい話ができたという。後に出てくる、休む試合を作る話もこのときに決めたものだった。
そして、東京五輪のためツアーが一週休みとなったこのタイミングで、辻村氏と小祝は北海道でプチ合宿を行った。これがターニングポイントとなる。
■ズレていたのは一瞬のこと
ラウンドを中心とした3日間のプチ合宿。試合から離れたコースで小祝を見た辻村氏は「いくつかのズレがありました。やはりダメなことにはちゃんと理由がありました」と好調時との差を感じ取ったという。「アプローチもバンカーショットも自信がないからちょっと早い。最近バンカーから寄らない理由がそこでした。そしてアプローチの打点もズレていました」。そして小祝の武器であるショットにはこんなズレを感じた。
「手と体がアンバランスになっていました。手の運動量が多くなっていたんです。それで手が体の間から外れていました。さくらはボディターンでタイミングを取るところがいい選手なのに手でタイミングを合わせてしまっていました。まさに手で始まり、手で終わるといった状態でした。本当に一瞬のズレなんですけどね」
3日間しっかり打ち込んで辻村氏が帰った後も、毎日テレビ電話で素振りのチェックを行った。軽井沢の試合中、最終日の前日もである。「少しずつ球を叩く音も良くなって、日に日にさくらの球筋が変わってくるのが分かりました。ピンを刺す、さくららしいショットが戻ってきた」。この結果、初日に6連続バーディなど「64」、最終日も2つ伸ばして唯一2桁アンダーに乗せて優勝することができたのだ。
■大事なのは“休まない”ではなく“高レベルを維持”
小祝と言えば『試合に出続ける選手』の一人だ。ツアー出場権を得た18年以降、出場権が限定される試合を含めて全試合出場を続けている。ケガ・病気での欠場もなく、能力の高さに加えて体の強さも際立っているが、大事なことは“休まない”ではなく“高レベルを維持”することだと辻村氏はいう。
「試合に出場せず調整することはサボりではなくて、高いレベルを維持するためです。また、ゴルフを違う角度から見るためでもあります。あれだけ再現性が高いさくらでも、スイングが一瞬ズレるだけでショットが左右にブレるということが今回改めて分かりました。すごく気が引き締まります」
試合をこなしながら調整できるのが一番だが、試合をこなすなかでは難しさが増してしまう。
「試合で成績を出すためには基本が必要です。ただし、試合では基本だけでなく応用も求められる。例えば手で調整してでも、たとえ手打ちになったとしても、狙ったところに打たなければなりません。そうなればどんどん基本からズレていきます。基本から離れるほど立ち返るのも難しくなる」
1年間出続ける難しさがそこにはある。「長いシーズン不調になることもある。そのなかでどうやって状態を上げていくのか。一方で調子が上がらずともやり繰りしなければいけないときもある。不調を受け入れなければいけないときもある。思い切って休まなければいけないときもある。大事なのはいかにして高レベルを維持するか。今回すごく良い勉強になったと思います」。もちろん、たった一週間では完調にはなりづらい。「後半戦に向けて良い試合となりましたが、まだ修正し切ったとは思っていません」と、ここから先どうしていくかもシーズンとの付き合い方となる。
今回の優勝会見で小祝は10月に一度試合を欠場することを明言した。現在賞金ランキング1位。復調して、ここからどんな活躍を見せてくれるのか。楽しみな試合となった。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利、阿部未悠などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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