米ツアーの新シーズン第2戦、サンダーソンファームズ選手権は、25歳の新鋭サム・バーンズが勝利し、通算2勝目を達成した。
ライダーカップ翌週の大会とあって、世界ランキング上位選手たちの姿はなく、今大会出場選手の中で世界ランキング最高位は25位のバーンズだった。そのランク付け通り、バーンズがチャンピオンに輝いたのだが、彼を勝利へ導いたものは、ランキングというよりは、彼が積み上げてきた経験だった。
上位7人が初優勝をかけて挑んだ最終日は出だしから大混戦になった。優勝争いに絡んでいた選手たちの大半は、下部ツアーのコーンフェリー・ツアー出身で、プロとして試合に臨む経験そのものは決して少なくない。
しかし、高額賞金やシード権がかかり、大観衆やテレビ視聴者など大勢の視線を感じる米ツアーで、初優勝を挙げるためのハードルは高く、最終組のキャメロン・トリンガルとルーキーのサヒス・ティーガラはスコアリングに苦しみながら後退していった。
プレッシャーに揺れる上位陣に付け入る隙ができれば、優勝経験のある選手たちが間隙を縫って追撃をかける。通算5勝のニック・ワトニーがスコアを7つ伸ばす快進撃で首位フィニッシュすると、そのワトニーに追いつき追い越したのが、バーンズだった。
バーンズは2018年にコーンフェリー・ツアーで1勝を挙げ、その年のファイナルズ3戦で7位になって19年からの米ツアー出場権を獲得。今年5月のバルスパー選手権で初優勝を飾り、新シーズンが始まったばかりの今週、通算2勝目を挙げて自信を高めた。
初優勝を目指していた選手たちがプレッシャーに負けてしまった一方で、着実にフェアウェイとグリーンを捉え続けたバーンズの落ち着いたプレーぶりを目にすると、優勝経験の有無がモノを言うのだなとうなずかされた。
しかし、バーンズを成長させたものは、初優勝の経験だけではなかったようだ。今年8月、世界ゴルフ選手権のWGC-フェデックス・セントジュード招待の最終日、バーンズは3人によるサドンデス・プレーオフに絡み、勝利したのはエイブラハム・アンサーで、バーンズは松山英樹とともに2位タイになった。
あの日、72ホール目を先に終えていたバーンズは「もう荷物をまとめて帰ろうとしていたら、思わぬ展開でプレーオフになった。そんなふうに、戦いには自分ではコントロールできない面があり、最後まで、何が起こるかわからない。だからこそ、逆に自分でコントロールできること、やるべきことを必死にやるのみだ」と話している。
今大会最終日を首位に1打差で迎えたバーンズは、「ひたすらフェアウェイとグリーンを捉える。それが、僕がやるべきこと」と考え、「たとえ何が起ころうとも、そのゲームプランをやり通すと決めていた」。
パットは決して好調ではなかったが、パットの不調を見事なショット力でカバーした。
「17番グリーンでリーダーボードを見て、18番をパーかボギーで上がれば優勝だと知ったら、そのとき、ついに心が揺れた」
そのせいか、72ホール目は、あれほど安定していたショットが狂い、バンカーに捕まってボギーフィニッシュになった。だが、それでも堂々の優勝を飾り、「シーズンのグッドスタートが切れた」と満足げに語った。
コーンフェリー・ツアーで腕を磨き、その年の終盤に、米ツアーでシード獲得を逃した75名とともにファイナルズ3試合を戦ってトップ50(コーンフェリーのトップ25名とファイナルズのトップ25名)に食い込み、米ツアーへ。それは、これから石川遼が挑もうとしている道程だ。
同じその道程を辿ったバーンズは、米ツアー3年目にして突然開花し、昨季と今季をあわせると、トップ10入りは13回。これは昨季の年間王者に輝いたパトリック・キャントレーの11回を上回る最多記録を更新中だ。
そうやって米ツアーには毎週のように次々にニュー・スターが現れているが、彼らは突然、どこかから沸いて出たわけではなく、コーンフェリー・ツアーという場を経て、着々と力を付け、経験を積み、その結果、大きく花開いている。
そのサクセスストーリーは、これからその道に挑む石川にとって、大きな励みになるのではないだろうか。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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