「日本女子オープン」は勝みなみの初メジャー制覇で幕を閉じた。なぜ多くの選手が苦しむなか、2位に6打差をつける完勝劇を演じることができたのか。上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が深層を語る。
■5年ぶりの烏山城、やっぱりキャリーが大事
毎年コースが変わる今大会。今年の舞台は5年前に畑岡奈紗がアマチュアで初めてメジャーを制した烏山城カントリークラブだった。井上誠一設計の名コースの特徴として辻村氏が挙げたのがグリーン。
「すり鉢状になっていて、つける位置が非常に大事。逆球を許してくれません。さらに距離が長く大きい番手で打たないといけないホールではセンターに、そうではないホールでいかにチャンスにつけるかがスコアメイクのカギでした」
フェアウェイにも特徴が。「基本的に烏山城はランが出ません。もともと軟らかく、さらに芝芽もきついのだと思います」。だからこそ、求められるのはキャリーでの飛ばし。「コースの距離も長いので、ビッグボールを打てないと2打目以降で長いクラブを持たされます。もちろん、女子オープンですからラフも短くない。キャリーで飛ばせて、フェアウェイに置けることが大事になってきます」。
それができたのが勝だった。「強みである大きな飛距離とパッティングを最大限に生かせていましたね。最終日の1番、2番の長いパーパットを沈めたこと、3つのパー5すべてでバーディを奪ったこと。そこに至る3日目の2つのチップインも忘れてはいけません。やってきた流れを放さなかった。攻めと守りがかみ合っていましたね」と2位に6打差をつける圧勝劇を評した。
■ドライバーショットにバランスが出てきた
勝といえばドライビングディスタンス2位(254.71ヤード)につける飛距離が持ち味。だが、以前の勝は「100%を超える振りをしていたように見えました。曲がってもいいや、というゴルフをしていたように見えました」と勝負どころで大きく曲げてしまうことが少なくなった。
それが、今大会では少し抑えめに見えたという。「以前を120%とするならば、85%くらいになってバランスが良くなっていました。ショットの呼吸が合っていた、と言えるでしょう。曲がっているときは呼吸も乱れていました」。とはいえ、飛距離の低下はそこまでなかったという。
「いいタイミングになったことと、ミート率が上がったからでしょうね。もともと勝さんは強い背筋力、トップでの上半身と下半身の捻転とそこからの回転力で飛ばしています。トップでの体のなかの“割れ(上半身と下半身が逆に動く状態)”がすごい。感覚的に言えばあのトップができれば、あとはほどくだけ。たくさんトレーニングをしたことで、それを100%出さなくても十分な飛距離を出せて、かつ曲がらなくなったからこその優勝だと思います」
4日間のフェアウェイキープは10番手。圧倒的な飛距離と方向性の両立が多くのチャンスを生み出した。
■攻守に冴えたグリーン上、ボールの置き方にも好調さが
それでも、チャンスだけでなくピンチは来るもの。それをしのぎ続けたのがパッティングだ。そのパッティングで辻村氏が評価したのが、ボールの線を合わせるうまさ。
「ボールに引いたラインをカップに合わせて置いて打つ選手は多いですが、実は置き方にも調子があるんです。悪ければどちらかに傾いたりしてまっすぐに置けない。また、スッと置けなければリズムよくアドレスに入っていけません。今大会の勝さんは“あとはまっすぐ構えて打つだけ”という状態を作れていました」
アマチュアでもよく見られるこの動作。簡単なようで技術が必要だという。「意外とまっすぐ向けられない選手はいっぱいいます。アマチュアはほとんど合っていないと言っていいでしょう。パッティング練習のときにまっすぐ置けているか、カップの側に行って確認してみてください」。だいたい左右のどちらかに傾いていて、違和感があるまま打っているという。「まっすぐ置く感覚を養うことで1打も2打も変わってくると思いますよ」。
■2位タイに入った二人の今後にも注目
最終的に勝が突き抜けるかたちとなったが、2位タイに入った上田桃子、西郷真央のプレーも光った。
「上田さんはかなり良くなっていると言えます。上がってきて開口一番“今週は私のショットが一番良かった”と言っていましたからね。そういうことをなかなか言わない選手ですから、それだけ戦えるショットを打てるようになってきたことに手ごたえを感じたのでしょう」
一方、勝と最終組で戦い今季5度目の2位。またしても勝利に届かなかった西郷も十分強さを見せた。
「勝さんにも共通する部分ですが、西郷さんのスイングの良さは何と言っても背中が大きく回ること。回らないとどうしても手でタイミングをとった手打ちになりがちです。大きな筋肉はブレが少なく、その大きな筋肉で打てているからショットが曲がりません。腕は振りますが、感覚としては“背中の回転に振られている”ときが一番いい。残り試合は少なくなってきましたが、とても楽しみ。今、一番いい時間を過ごしているのではないでしょうか」
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、小祝さくら、吉田優利、阿部未悠などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
<ゴルフ情報ALBA.Net>