古江彩佳が地元・兵庫県で2週連続優勝を成し遂げた先週の「マスターズGC レディース」。最後は1打差まで迫った西郷真央を退け、逃げ切りで通算6勝目(アマチュアでの1勝を含む)を挙げた21歳の強さの理由を、上田桃子らを指導するプロコーチ辻村明志氏が分析する。
■強風のなかFWキープ100%…新ドライバーへの信頼感も
小祝さくらのキャディとして、予選ラウンド2日間で古江と回った辻村氏。近くでそのプレーを見て、「ティショットはラフに行かないし、パターも決まる。スキが見えませんでした」と舌を巻いた。そしてトータル4アンダーで決勝ラウンドに進み迎えた3日目。ここが優勝への「ターニングポイント」になった。
この日、早朝から強風が吹く難コンディションに多くの選手が苦しむなか、古江はただ一人60台(67)をマークし単独トップに躍り出る。さらに驚くべきは、フェアウェイキープ率が100%だったという点。「古江さんは、そこまで高く球が上がるタイプではないので、風が強くても大きく左右されるタイプではない」(辻村氏)と球筋も功を奏したが、北北西からの冷たい風は打球への影響だけではなく、体の熱を奪うものでもあった。
そのなかでも古江のティショットはフェアウェイをとらえ続けた。「本当にドライバーショットが曲がらない。以前はたまに左に巻き込むような球も出てましたが、一発もそれがなかった。ロースピンで、そこまで高さのないドローボールが、毎回同じ幅で曲がる。ずっと同じ球を打っているような錯覚に陥りました」。まさに精密機械。そんな正確さを誇っていた。
その安定感について、辻村氏はラウンド中に古江と話した際、「これがハマりました。球がねじれないんです」と言って、最近投入したブリヂストンの新作ドライバー「B1」の方を見たという。このクラブへの信頼感は会見でも話していた部分だが、自分に合った道具を手に、不安なくプレーできていることも好調さの一つの要因に挙げられる。
■小柄だけど飛距離を出すための工夫とは?
またショット面について辻村氏は、こんなポイントを指摘する。身長153センチと小柄な古江だが、例えば9番アイアンの飛距離は130ヤード程。これは女子プロの平均飛距離はしっかりと出ていることになる。カーボン製のシャフトを挿すという工夫もしているが、辻村氏はこの秘密を解き明かすうえで『左手のグリップ』に注目した。
「古江さんは、構えた時に左手の小指のナックルが上から見えるくらいのストロンググリップです。これだとインパクトで当たり負けしない。あの体で普通の握り方をすると、飛距離的に落ちてしまう。フォーナックル見えるストロングリップで、しっかりボールをつかまえているという印象。普通ならここまで極端な握り方だと直しそうなものですが、あえてそのままにして飛ばすための工夫にしていますね」
さらにダウンスイングが、毎回インサイドから同じ軌道でおりてくる再現性の高さも傑出。これは「毎回同じ力感で振れている」証拠で、「調子のよさ」のバロメーターになる部分でもあると辻村氏は続ける。風に負けない打球の重さも感じることができ、「体のポテンシャル以上の球を打てる」理由を、こういう部分に求めた。
■難しいピンポジでも“決めまくった”
そして、この4日間で特に選手が手を焼いたのが、速く仕上げられたグリーンだった。決して球が止まらないわけではない。ただスティンプメーターは4日間11〜12フィート強に設定された。これに加え4日間通じて傾斜にピンが切られるホールが多かっただけに、タッチを合わせるのも一苦労だったというのは、選手たちが共通して証言していた部分でもあった。
辻村氏は、そんなグリーン上でも「本当に入ってましたね」と突出したプレーを見せる古江に感心するほかなかった。ミドルレンジのバーディパットが、数ホールに1本決まる。ショットでボールを止めきれず、嫌な距離のパーパットが残った時でもそれをしっかり決めてくる。「(パターの)フェース面が左右にブレないから、ボールの回転がいい。2日間一緒に回って、ミスパットは1度も見ませんでした。まっすぐに押し出せるし、ラインの読みもうまいから、自分のライン上に送り出せれば、ほとんど入ります」。勝負を決めたウイニングパットも、外せばプレーオフという2メートルのパーパットを「緊張しました」といいながらも、軽く流し込んだようにさえ見えた。
前週の「富士通レディース」ではプレーオフで敗れ、リベンジに燃えていた勝みなみは、3日目のラウンドを終えた後の会見で古江のイメージについて「職人」と答えた。「フェアウェイに置いて、セカンドを打って、パターを入れる。自分が狙っているところに置き続けて、職人だなと思います」というのがその理由。プロ野球の世界では“ファインプレーをファインプレーに見せないのが本当の名手”ということがよく言われるが、それに近いものを勝の言葉から感じる。
優勝会見の席で、スタート時の心境を聞かれた古江は「スキを見せないように。ミスはできない」と答えた。1打ビハインドのままホールアウトし、プレーオフへの望みをつないだ西郷は、練習グリーンで「(1組後の)古江さんがボギーを打つとは思ってなかった。けど“絶対”はないから」という気持ちでボールを転がしていた。自分の勝利を信じたいライバルでさえも“スキ”を見つけることができなかった、そんな風にも聞こえてくる。「残る5試合、ほとんど上位にいきそうな気配がありますね。去年の秋のような神がかり的なものを感じました」。最後に辻村氏は、古江の“怖さ”をこう表現して締めくくった。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、小祝さくら、吉田優利、阿部未悠らを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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