<バターフィールド・バミューダ選手権 2日目◇29日◇ポートロイヤルGC(バミューダ諸島)◇6828ヤード・パー71>
「バターフィールド・バミューダ選手権」の予選ラウンド2日目の最終ホールとなったポートロイヤルGCの9番グリーンに、地元クラブプロのブライアン・モリス(54歳)が上がって来ると、大きな歓声が送られた。
3メートルのパーパットはわずかにカップを外れタップインでボギー。バックナインは「48」と大きく崩れてこの日は「92」。初日の「89」と合わせトータル39オーバー、出場最下位で予選落ちとなった。
ホールアウトとしたモリスは従兄弟でもある同伴競技者のマイケル・シムス(バミューダ)としっかりと抱き合うと大きな拍手が送られた。その中にはグレアム・マクドウェル(北アイルランド)の姿もあり、「これは本当に特別だ」と声を震わせた。
コロナの影響でバミューダへの移動が厳しく、出場選手が規定数に満たなかった今大会。スポンサーはその推薦枠を地元、オーシャンビューGCのヘッドプロ、モリスへの招待に充てた。
モリスは大病を患っている。後頭部にできた悪性腫瘍の摘出手術を受けたのは2年前。ところが同時にがんが胃、食道、首など全身に転移。告知されたのはステージIV、末期がんだった。
推薦出場のオファーを受けたモリスは迷わず飛びついた。
「PGAツアーで名前が呼ばれることは本当に夢だった」とモリス。「家族、友達がきっと来てくれる。でも彼らとまた会えるかは分からない。だから本当に僕にとっては“特別”な意味があるんだ」と言う。
予選をともにプレーしたシムスは米国のロードアイランド大でスター選手、アマチュアで大いに活躍したがプロ生活12年でピリオド。ところが今回は地元の予選会から出場権を得た。
「ブライアンは本当にものすごく強く戦っている。彼を助けることはできないが、でも一緒に笑うことはできる」とシムスは話す。
地元の応援団は“TEAM MORRIS”と書かれたTシャツを着て、モリスの一打一打を見届けた。
「ゴルフをプレーしている時間は病気のこともすべて忘れることができる。とにかく目の前の一打を考えるだけ。どうやってティショットを攻めるか、どうやってこのパットを沈めるか、バンカーから出すかってね」と涙を堪えきれなかった。
モリスの戦う姿は大きな共感を呼んだ。「どんなことがあっても最後まで諦めないでほしい。きっと何か1つでも夢は叶うことはある」とメッセージを送ったモリス。
「また普通の日常に戻る。週明けの月曜には再び化学治療を受けて、とにかくできるだけ長く生きるんだ」と言葉を残したモリスに、いつまでも拍手は鳴り止まなかった。(文・武川玲子=米国在住)
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