<樋口久子 三菱電機レディス 最終日◇31日◇武蔵丘ゴルフコース(埼玉県)◇6650ヤード・パー72>
「見ていてハラハラドキドキの面白いゴルフができたと思います」と、渋野日向子は優勝会見ではにかんだ。そのド派手な逆転劇の舞台は最終18番ホール。ティが前に出た473ヤードのパー5だった。
まずは首位のペ・ソンウ(韓国)と2打差で迎えた正規のラウンド。追いつくにはイーグルしかない状況で、さらに相手がバーディを獲ったら終わり。絶体絶命の状況だったが、スマイルシンデレラは笑顔で、前のホールでバーディを奪ったライバルに「ナイスバーディ」と声をかけた。そして優勝するには「イーグルしかない」とギアを上げる。
気合いを入れてドライバーを振りぬいたティショットは、ピンまで198ヤードのフェアウェイへ。完璧な一打で、3番ウッドではなく、その下の7番ウッドを持てる距離まで運ぶと、左足下がりのライでも「逃げずに狙っていくしかない」と攻めた結果、2オン成功。イーグルパットは7メートルと追いつく状況は整った。
しかし、このイーグルパットはショート。「すげー悔しい。“う〜”みたいな顔をしていましたよね(笑)。打った瞬間からショートとわかって“はい〜”ってなった。下りだったので(カップの)横まで行きましたが、個人的には悔いが残る」。楽々バーディとしたが、この時点ではまだ1打差。だが、ソンウがまさかのボギーを叩いて首位に並び、優勝に望みをつないだ。
さらなるスーパーショットを見せたのが、その後のプレーオフ。バーディ狙いか、または思い切ってイーグルを狙いに行くのか注目を集めたが、「飛ばせば2オンできるパー5。最後は“いけいけゴーゴー”でした」と振りにいったティショットをピンまで221ヤードのフェアウェイに置くと、迷わず3番ウッドを選択する。
ピンは左。その手前にはバンカーが口を開けているという状況でも迷わなかった。勝負をかけたショットはバンカーを超えてグリーン手前に着弾。そこからランも手伝って、左3メートルにピタリとつけた。
「右から寄って行ってくれたらいいかなと思ったが、自分が向いた方向がピンに近かった。ひっかけてもバンカーに収まるかなと思っていました。クッションの位置も狙っていないです。あわよくばそこに落ちてくれればと。グリーンに乗ったら転がっていくのも分かっていましたが、スプーンで高さも出ないし、200はキャリーでは出ないなと。マン振りというよりは狙い撃ちという感じですね。ピンの左につくこと自体、もう一生打てないと思います(笑)」
相手のソンウも「すごく良かったので、それを見たときはちょっとガッカリした気持ちもありました」と戦意を喪失させるほどの一打で大歓声を引き出すと、今度はど真ん中から沈めてイーグル締め。ソンウにバーディパットすら打たせない完勝で、3週前の「スタンレーレディス」に続くツアー6勝目を挙げた。
6月に出場した海外メジャー「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」の2日目。上がり2ホールでバーディ、イーグルを奪いぎりぎりで予選を通過した時にギャラリーから「面白いゴルフをしてくれてありがとう」と言われたことがきっかけで“見ていて面白い”ゴルファーになりたいと思うようになった。18番で魅せたスーパーショットの数々は、きっとギャラリーたちの記憶に残ったに違いない。(文・秋田義和)
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