“初打ち”。ゴルフでは年明け最初のラウンド、ショットのことをいう。一年の始まりでいいショットが打てればいい一年になりそうな気がするし、OBになったら今年のゴルフはどうなることやらと不安になってしまう。ゴルフのこの独特な心情はわたしたちアマチュアだけでなく、プロにもあてはまる。国内女子ツアー開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」で初日を終えた選手たちは“初打ち”に「緊張した」と口をそろえた。
アウトコース1組目の組み合わせ表の1番上に名前を連ね、全体のトップバッターを務めたジャンボこと尾崎将司の門下生でルーキーの佐久間朱莉は「わたしが始球式だなと思った(笑)。とても緊張しました」と打球は左ラフへつかまった。次にティに立ったのは、この大会がプロデビュー戦となった佐藤心結(みゆ)。「ふわふわしている感じで、地に足がついていない。今までにない緊張感でティショットを打ちました」と並々ならぬプレッシャーを感じたという。しかし、さすがは昨年10月にアマチュアとして渋野日向子と優勝争いを演じたルーキー。振り抜いた打球はフェアウェイセンターに落ちた。
普段は緊張しないという稲見萌寧も“初打ちは”「緊張した」と話すほど。ドライビングディスタンスス女王の原英莉花は肩に力が入ったというが、スタンドのギャラリーの拍手に「すごく楽しくプレーできた」と落ち着きを取り戻し、280ヤードのビッグドライブを見せた。
“初打ち”の球は選手によってさまざまで十人十色。そこでアウトコースからスタートした全18組54人の選手の球の行方を独自調査してみた。
フェアウェイキープをしたのは31人、右ラフにつかまったのが5人、左ラフに落ちたのは18人だった。キープ率に換算すると57.4%。2日目の同ホールのキープ率が70.37%だったことに比べると、低い数字になっている。なぜこのような結果となったのか。青木瀬令奈のコーチで、キャディも務める大西翔太氏に話を聞いた。
「左サイドよりも右サイドのラフのほうが芝が長く、右に落ちてしまうとフライヤーが読みづらいです。木も邪魔になります。フェアウェイも左から右に傾斜があるので、左サイドを狙いますね。もちろん、緊張すると体が動かなくなって球は左に出てしまいます。緊張とマネジメントが相まった結果でしょう」
実際に青木の“初打ち”も左ラフ。緊張感によるものだけでなく、プロならではのマネジメントによって左サイドを狙い、その結果、左ラフに外す選手が多かったようだ。
“初打ち”のほかにも“2メートルのパーパット”、“予選通過がかかったグリーン上”、“首位で迎えた最終18番のティショット”など緊張の瞬間はたくさんある。この緊張をひとつずつ乗り越えた先に見えてくるのが優勝争い、そして勝利だ。優勝を飾った西郷真央の“初打ち”はフェアウェイだった。(文・笠井あかり)
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