最新ゴルフニュース

米ゴルフ界を象徴する「クール」な優勝争い【舩越園子コラム】

米フロリダ州の難コース、イニスブルック・リゾートで開催されたバルスパー選手権の優勝争いは、米ゴルフ界の巨大なピラミッドから生み出されたアウトプットのような展開だった。
3日目、25歳のルーキー、デービス・ライリー（米国）と同組で回った28歳のジャスティン・トーマス（米国）はアラバマ大学ゴルフ部の「先輩と後輩」だ。まだ高校生だったライリーがアラバマ大学から勧誘を受け、ゴルフ部の大会を見学しようと訪問した際、ライリーの目の前で優勝したのがトーマスだった。
そのトーマスに憧れ、入学を決めたライリーは、入学後、トーマスに可愛がられ、トーマスそっくりのスイングを身につけ、トーマスに勝るとも劣らないワザと強さを身につけていった。
憧れの「先輩」を追いかけ、大学卒業後はプロ転向して、下部ツアーのコーンフェリー・ツアーへ。その初戦の練習場で球を打っていたとき、かつてマット・クーチャー（米国）など名選手のバッグを担いできたPGAツアーのベテラン・キャディ、ランス・ベネットから声をかけられ、2人はタッグを組んだ。
ベネットいわく、「練習場には、ここ（下部ツアー）に長居することなくPGAツアーへ昇格していくと思われる有能な選手がほんの数人、見て取れた。そのうちの一人がライリーだった」。
ベネットの確かな「目」に才能と将来性を見込まれたライリーは、ベネットに支えられ、下部ツアー2勝を挙げて、今季からPGAツアー参戦を開始。未勝利ながら、すでにジョン・ラーム（スペイン）やアダム・スコット（オーストラリア）らと同組で回り、「たくさんのことを学び、それが糧になっている」。
そして今大会3日目、「先輩」トーマスと同組で回り、「62」をマークして一気に単独首位へ浮上した。ライリーのグッドショットやグッドパットを笑顔で讃えたトーマスの激励が、ライリーの大きな力になり、どんなライからも、どんな状況からも、彼は魔法のように出したり、寄せたり、入れたり。
そのマジカル・パワーは最終日も続いた。5番でトリプルボギーを喫したライリーは、優勝争いから脱落したかに見えたが、執拗に粘って巻き返し、首位を走っていたサム・バーンズ（米国）を17番のバーディで捉え、2人はサドンデス・プレーオフへ突入した。
昨年大会でツアー初優勝を挙げたバーンズは、10月の「サンダーソン・ファームズ選手権」を制し、すでに通算2勝の実績を誇っている一方で、ライリーは未勝利のルーキー。だが、かつて2人はAJGA（全米ジュニアゴルフ協会）のツアーで腕を競い合った同期で、2014年のジュニア・ライダーカップでは、ともに米国代表として出場したチームメイトだった。
ジュニア時代から好敵手だった2人が、それぞれ大学へ進み、プロになり、下部ツアーへ、PGAツアーへと進み、そして最終日にプレーオフで勝利を競い合った展開は、PGAツアーを頂点とする巨大なピラミッドをいかにして彼らが駆け上がってきたかを人々に披露するドラマのようだった。
初優勝を目指すライリーの5番のトリプルボギーからの見事な挽回ぶりには、未勝利選手とは思えない落ち着きが感じられ、貫禄さえ漂わせていた。
「まだ、たくさんのホールが残っていると自分に言い聞かせた。勝てるチャンスは十分に残されていた。そしてバック9はいいゴルフができた」
しかし、ディフェンディング・チャンピオンとして今大会に臨み、初日から首位で発進して好調なゴルフを続けてきたバーンズのゴルフには、それ以上の落ち着きと貫禄が感じられた。
最終日、3バーディを奪って着実にスコアを伸ばし、17番では痛恨のボギーを喫したものの、首位を維持してサドンデス・プレーオフへ。2ホール目の16番で10メートルのバーディパットを見事に沈め、大会連覇と通算3勝目を達成した。
「たくさんパーを拾ったことが勝利につながった。支えてくれた妻とコーチに感謝している。最後のバーディパットは、とてもクール（いい感じ）だった」
そう、バーンズの勝ちっぷりも、かつてのトップジュニアどうしの対決も、かつての先輩後輩の同組ラウンドも、すべてが「So cool（とてもクール）」な大会だった。
文/舩越園子（ゴルフジャーナリスト）

<ゴルフ情報ALBA.Net>