<全米オープン 事前情報◇15日◇ザ・カントリークラブ(米マサチュセッツ州)◇7264ヤード・パー70>
米マサチューセッツ州ボストンの中心部から南西に約12キロの、閑静な邸宅が並ぶブルックラインの街に“ザ・カントリークラブ”と描かれたサインが登場する。ここは1894年にUSGA(全米ゴルフ協会)が創立されたときの5メンバーの一つとして、長い歴史を持つ。
この地にクラブが設立されたのは1882年と実に140年前のこと。当初は競馬場だったが少しずつゴルフコースが造られていったという。そのためコース設計者が存在しないが、1893年には6ホールが完成し、翌年にはウイリアム・キャンベルが初のプロゴルファーとなり9ホールに増設。1899年までに18ホールが完成した。
現在はクライド、スクワラル(リス)、そしてプライムローズと3つの9ホールが存在するが、今回はメインコースのスライドとスクワラルから15ホール、プライムローズから3ホールのミックスでプレー。大会前の2019年にはゴルフコース設計者のギル・ハンス氏によってよりオリジナルのコースに近いリノベーションが行われた。
過去には1913年、63年、88年と3度の全米オープンが開催され、99年にはライダーカップの舞台にもなった。
88年はカーチス・ストレンジ(米国)、63年はジュリアス・ボロス(米国)が勝利。そして特筆すべきは13年、「アマチュアの父」と呼ばれるフランシス・ウィメット(米国)の勝利である。4歳のとき、一家がこのザ・カントリークラブの近くに引っ越してきたウィメット。決して裕福ではない階級だったが、幼少の頃から目の前のカントリークラブでプレーされるゴルフへの興味を持ったという。11歳で同クラブのキャディを初めたウィメットは、独学でゴルフを学んだ。そして腕を上げたウィメットは周囲の目に留まることになる。
13年、マサチューセッツ州アマチュア選手権を制し、同年9月の全米オープンへの招待を受けたウィメット。当時はまだゴルフは富裕層のもので、さらに英国人がトッププレーヤーを独占していた。
そんななか、ウィメットの勝利は米国内だけでなく世界中で大きく伝えられ、ゴルフは英国のものという世界の認識を覆した。
これを機にこれまで会員制のクラブに入会できる富裕層だけのものだったゴルフが米国の主要スポーツへと変貌し、市営やパブリックのゴルフコースが誕生したという。
アマチュアのウィメットはスポーツ用品ビジネスに身を置いていたが、アマチュア資格との掛け持ちは厳しく、知名度のあるウィメットはビジネスに利用されていると判断され、一時はアマチュア資格を失った。18年、第一次世界大戦中には米陸軍に入隊。その後アマチュア資格を回復し、20年代には「マスターズ」を創設した球聖ボビー・ジョーンズ(米国)と戦っている。
このウィメットの生涯を綴った映画、「The Greatest Game Ever Played」(ザ・グレイテスト・ゲーム・エバー・プレイド=過去最高のゲーム)は05年に米国で映画化され、ウィメットの活躍あればこそ、現在のゴルフの繁栄があると言われている。
今年の全米オープンのアマチュアは世界ランキング1位の中島啓太(日体大4年歳)を筆頭に15名が参戦。最年少は18歳のニコラス・ダンラップ(米国)、最年長は31歳のスチュワート・ハゲスタッド(米国)。ゴルフの歴史を感じる戦いがまもなく始まる。(文・武川玲子=米国在住)
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