<全英オープン 2日日◇15日◇セント・アンドリュース オールドコース(スコットランド)◇7313ヤード・パー72>
18番ホールの花道を歩くタイガー・ウッズ(米国)はキャップで顔を隠しながら、手で涙を拭いていた。
第150回「全英オープン」2日目は、1バーディ・2ボギー・1ダブルボギーの「75」でプレー。予選通過は叶わなかった。それでも“聖地”に集まったギャラリーは、特大の歓声とスタンディングオベーションでレジェンドを包み込んだ。過去25年以上にわたりゴルフ界をけん引してきた男に対して、最大の敬意を示したのだ。
ウッズは、自身の持つ3つの“クラレット・ジャグ”(全英オープンの優勝カップ)のうち、2つをこの地で掲げた。そして「世界で最もお気に入りのゴルフコース」と公言してはばからない場所でプレーするために、先月の「全米プロゴルフ選手権」は途中棄権したほど。今大会にかける意気込みは強かった。
しかし完全復活を望んでいたゴルフファンの期待には応えられなかった。さらに言えば、コース上で途中から脚を引きずりながら歩く46歳を見ていた一部のファンは、『今大会がウッズにとって最後の全英オープンになるのではないか?』と考えられずにいられなかったはずだ。
ホールアウト後に明言することはなかったものの、「過去にジャック(・ニクラス)やアーノルド(・パーマー)がどんな気持ちになっていたのかが分かった気がした」とその可能性をにおわせ、「ゴルフとは何なのか、全英オープン王者とは何なのかを、彼らは理解していた」と続けた。そして涙の理由については、「私は幸運にもこの場所で2度も全英オープンを制覇することができた。感情的になったのは、またここに戻ってこられるかどうか分からないからだ」と語った。
開催コースが持ち回りの全英オープンは、22年ロイヤルリバプール、23年ロイヤルトゥルーン、24年ロイヤルポートラッシュとすでに次の舞台は決まっている。セント・アンドリュースが会場として選ばれるのは、通例では5年に一度である。現時点では正式発表はないが、もしそうなれば、全英オープンが再び聖地に戻ってくるのは最短でも2027年となる計算となる。
初日に「78」と大きく崩れたウッズは、「予選通過をするには、明日は『66』が必要になる」と話していた。フィジカルに問題がない好調のウッズだったとしても簡単になせる業ではないが、身体の色々な箇所をけがして、昨年2月には人生を変えるかもしれない大事故を経験している今の状態では、それは果てしなく難しいタスクだと思えた。
強い決意のもと2日目に挑んだウッズは3番でバーディを奪い、そこから一気にギアを上げ、以前のような「タイガーチャージ」が期待された。しかし翌4番、そして6番でもボギーを叩いて、急激に勢いがなくなっていく。その後パーは重ねるもののバーディを取れずにラウンドは進み、その間には足を引きずりながら顔をしかめる様子もうかがえた。そして迎えた16番では、痛恨のダブルボギー。奇跡は起こらないことが分かった。
それでも、18番ではメジャー15勝のスーパースターを一目見ようと会場を訪れたファンたちは、拍手喝さいでウッズを迎え入れた。スタンドは埋め尽くされ、コースを囲む通路はギャラリーの層が何重にもできている。同組のマット・フィッツパトリックとマックス・ホーマ(いずれも米国)は、憧れの大先輩が一人でスウィルカン・ブリッジを渡れるように道を譲り、舞台を整えていた。そして“スウィルカン・ブリッジ”を渡り、フェアウェイセンターを歩くウッズに声援と拍手を送り続けた。
隣接する1番をプレーしていたローリー・マキロイ(北アイルランド)もタイガーとすれ違いざまに手を振り、ギャラリーだけでなく、多くの選手がそのプレーを見守った。全米オープンを制したフィッツパトリックは、この場面を振り返り「鳥肌モノだった」とひとこと。「周りを見ると、誰もが立ち上がり、タイガーをスタンディングオベーションで迎えた。信じられないほどのインパクトで、一生忘れることがない光景だ」と語る。
「18番の温かい声援は、僕の心に響いたよ。信じられない気持ちだった。この大会に関わるすべての人々の“理解”と“尊敬”の大きさだった」
2日目のラウンドを「73」でフィニッシュしたウッズは、トータル8オーバー。「聖地でのプレーはこれが最後になるかもしれない」という言葉を何度も繰り返し、カットラインからほど遠いスコアでコースを後にした。それでも「僕は試合から引退することはないよ。もっとハードワークをして、来年はもっと多くの大会に出られるように。自分にチャンスを与えてあげられることを願っているよ」という前向きな言葉も残している。
ゴルフの申し子を再び聖地で見る機会はあるのだろうか。ゴルフファンはこれが最後にならないことを願っているのだが…。
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