<ANAオープン 事前情報◇13日◇札幌ゴルフ倶楽部 輪厚コース(北海道)◇7063ヤード・パー72>
国内男子は秋の陣に入り、シーズン終盤まで連戦となる。札幌ゴルフ倶楽部 輪厚コースで開催される「ANAオープン」は今年で48回目を迎える。クラブハウスを出ると歴代チャンピオンの優勝写真が飾られ、その歴史を感じられるが、1984年大会覇者に似た選手が通りかかった。
「泉川メイソンです」。父は沖縄県出身で1980年から90年代に活躍し、84年の今大会を含む、レギュラーツアー4勝を誇る泉川ピートである。メイソンは2019年に日本プロゴルフ協会のプロテストに合格し、20年1月にプロ入会。今年でプロ3年目。12日(月)に行われたマンデー(主催者推薦選考会)で「68」をマークして1位タイとなり、レギュラーツアーデビューの切符を手にした。
「初めてのレギュラーツアーなので練習日から緊張しています。ギャラリーが入ったらどうなるんでしょうね…」と少しこわばった表情で話すが、笑うと父・ピートにそっくりである。
世界的な秘密結社を名前の由来とするメイソンは01年2月生まれ、沖縄県出身。ピートはすでにツアーの第一線を退いていた。小学生時代は野球に没頭していたが、「何かのプロになりたいと思っていた」というメイソンは野球ではその道は厳しいと判断し、中学入学と同時に父もやっていたゴルフの道を歩み、父の手ほどきを受けた。
「最初は優しかったのですが、『プロを目指す』というと途端に厳しくなりました(笑)」。プロの道が厳しいことは自身がよく知っていることもあり、指導に熱が入った。「親子だと違う感情が入ってしまう」と中学卒業後は、現役時代ピートが属していた青木功を筆頭とする青木ファミリーの番頭格である海老原清治の門をたたく。通信制の高校に入学して千葉県の我孫子ゴルフ倶楽部の研修生となって腕を磨いた。
研修生になって3年でプロテストに合格。その知らせを受けた父は褒めることなく「やっとスタート地点に立っただけだ」と発破をかけた。しかし、その後はツアーの出場権をかけた予選会では成績を残せず、レギュラーどころか下部ツアーの出場の道も遠かった。昨年、今大会のマンデーでは「79」の大たたき。「ここまでは(プロの世界は)厳しいと感じています」と父の言葉どおりと話す。
身長164センチと大柄ではないが、ドライバーの飛距離は290ヤードでパッティングを得意とする。沖縄育ちということもあり、「父からは風が吹いたときの球の操作の仕方を教わりました」と風の日を得意とする。マンデーは強風が吹き、1年の成長を見せつける形でトップ通過を果たした。
本戦出場を父に報告すると「俺も勝っているから、勝っちゃえばいいじゃん」とエールを送られたが、「初めてなんで…段階を踏んで…まずは予選突破」と謙虚に話すが、「推薦でマンデーに出させてもらって、オヤジが勝った試合でツアーデビューするというのは、もっているのかなと思います(笑)」と内心は大きなチャンスをつかむ気持ちもある。
レギュラーツアーの試合を親子で制した例は過去に“ゴルフ界のドン”と呼ばれた杉原輝雄と息子の敏一の一例のみ。メイソンの将来の目標は「父を越えたい。ツアー5勝以上」。見つめるのは今季3勝を挙げ、ツアー通算5勝目を挙げた同郷の先輩であり、身長158センチの比嘉一貴だ。中学時代に一度ラウンドしたことがあり「当時から別格でした」と雲の上の存在だったが、「今はもっとすごくなっています。僕も頑張り次第では可能性はなくはないと思っています」と大きな刺激を受けている。
ゴルフのモットーは「一言でいえば平常心」。バーディやボギーにも一喜一憂せずに「ロボットみたいなプレーをしたい。落ち込むだけ損だと思いますから」。平常心の敵はデビュー戦という緊張になりそうだ。
「あとニュースといえば、2カ月前に入籍しました」。うれしそうに教えてくれたが、新しい家族にもいい報告をしたい気持ちも強く持っている。父越えのためのまさにスタート地点に立つ。(文・小高拓)
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