<WGC-デル・マッチプレー 最終日◇25日◇オースティンCC(7,108ヤード・パー71)>
世界ゴルフ選手権シリーズの「WGC-デル・マッチプレー」は今年が20回目の開催だった。会創設当初は勝ち抜き方式だったため、スター選手が1、2回戦で早々に敗退し、最終日の決勝マッチはギャラリーもパラパラでTV視聴率も散々というケースが過去には幾度も起こった。
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そのため、米ツアーはエキサイティングな大会作りを目指して試合方式を改良し、開催場所も変えて試行錯誤を繰り返し、その結果、64名を16組に分け、3日間、組内で総当たりした上で最大ポイントゲッターが土日の決勝へ進むという現在の方式になった。
それでもその方式に異論を唱えるヘンリック・ステンソン(スウェーデン)は欠場する道を選んだが、それ以外の部分では、今年の大会は開幕前からいろいろな話題に溢れていた。
ジャスティン・トーマス(米国)は今大会で優勝すれば、ダスティン・ジョンソン(米国)と入れ替わって世界一になるはずだった。それを阻止すべく奮闘が期待されたジョンソンは大会のディフェンディング・チャンピオン。2人の動向は大きな注目を集めていた。
3月になって復活優勝を果たしたばかりのローリー・マキロイ(北アイルランド)やフィル・ミケルソン(米国)が、今大会でさらなる復活ぶりを見せるかどうかも注目されていた。
そうした注目の“向こう側”には間もなく始まる「マスターズ」がある。誰が世界ナンバー1の立場でオーガスタに乗り込むのか。マスターズ3勝のミケルソンなら、47歳という年齢でも優勝できるのではないか。メジャー大会の中でマスターズだけは未勝利のマキロイが、今年こそグリーンジャケットを羽織るのではないか?そんな期待が膨らんでいた。
そして、期待は選手たち自身の胸の中にも、もちろんあった。今大会終了後の世界ランキング50位以内ならマスターズに出られる。
「これで50位に入ったよ」
ルイ・ウーストハウゼン(南アフリカ)とのマッチを制し、準々決勝進出を決めたイアン・ポールター(イングランド)に数人の米メディアがそう知らせ、ポールターは「本当に?」と3回も念を押したそうだ。しかし、準々決勝が始まる10分前に、その情報が実は間違いで、もう1マッチ勝ち進む必要があると知らされ、「ショックを受けた」というポールターは、ケビン・キスナー(米国)との準々決勝マッチに8&6の大差で敗れた。
そして、最大の注目を集めていたトーマスはバッバ・ワトソン(米国)と対戦した準決勝で池につかまり、短いパットを何度も外し、“らしくない”プレーぶりで3&2で敗北。「正直、世界一のことばかり考えてしまった。自分でセルフプレッシャーをかけてしまった」と、潔く反省し、苦笑した。
マッチプレーは1対1の戦いだ。18ホール未満で決着することも多い短期決戦でもある。技術面、メンタル面、肉体面のわずかな揺れがすぐさま数字に反映され、流れを変えて巻き返すための時間的猶予は4日間72ホールのストロークプレーより格段に少ない。
決勝マッチは準決勝で心を揺らしたトーマスを下したワトソンと、準々決勝で心が大揺れしていたポールターを下したキスナーの対戦となり、冷静沈着を貫いたワトソンが7&6で圧勝した。
ビッグタイトルを目前にして「最初から集中できなかった」と振り返ったキスナーはメンタル面で大敗したと言っても過言ではない。
ワトソンは2011年のこの大会で「優勝すれば世界一」という立場に立ち、準決勝で敗退した苦い経験の持ち主ゆえ、今年のトーマスの心境は手に取るようにわかったはず。さらに言えば、マスターズ2勝、世界選手権過去1勝の実力者ゆえ、この大会の優勝争いでキスナーのようにドギマギすることもない。
そして何より、病気から回復して今年2月の「ジェネシス・オープン」で復活優勝を果たしたばかりのワトソンは「ヘルシーな肉体が僕のマインドをヘルシーにしてくれて、それが自信につながっている」。
大会の在り方やプレー方式に対しては、いろんな意見があるだろう。だが、大会の在り方や方式がたとえどう変わろうとも、マッチプレーを戦う以上は、心技体すべてを整え、それらを揺らすことなく1戦1戦を戦う以外にできることはない。それができず、心技体の何か1つでも揺らいでしまったら、瞬く間に敗北への道を進むことになる。
それがマッチプレーの怖さであり、面白さでもあることを、敗退していった選手たち、そして優勝したワトソンが私たちに教えてくれた。
文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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