<ヒューストン・オープン 最終日◇2日◇ゴルフクラブ・オブ・ヒューストン(7,441ヤード・パー72)>
近づいては遠のき、近づいては遠のき、そして手に入れたオーガスタへの最後の切符。「ヒューストン・オープン」を制したイアン・ポールター(イングランド)のプレーぶりは、これまでの彼とは別人のように終始冷静だった。そのぶん、彼の勝ちっぷりは感動的だった。
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先週の「WGC-デル・マッチプレー選手権」で準々決勝マッチに臨もうとしていたポールターは、その時点で米メディアから「もう世界ランキング50位以内は確保された。マスターズ出場確定だ」と言われ、大喜びした。だが、その情報が誤りで、「あと1マッチ、勝つ必要がある」とマッチ開始の10分前に知らされたポールターは、当然ながら心を乱し、8&6で大敗。結局、世界ランキング50位以内に入れず、マスターズ出場は遠のいた。
今週のヒューストン・オープンで優勝することは、マスターズ出場のための最後の道。そのラストチャンスを狙っていたのはポールターのみならず、今大会に出場した144人中126人。その中には、アーニー・エルス(南アフリカ)やリー・ウェストウッド(イングランド)、スティーブ・ストリッカー、ビル・ハース(ともに米国)といった実力者たちも含まれ、誰もがオーガスタへの最後の切符を手に入れるために必死の想いだった。
その厳しい環境の中、前週に大きなショックを受けたポールターが抜きん出て勝利することは、もちろん実現すれば最高の展開になるのだが、「まさかねえ」と誰もが思う奇跡の物語に近かった。
初日。ポールターは「73」と大きく出遅れ、「荷物をまとめて帰り支度をしようとしていた」。だが、2日目「64」、3日目は「65」をマークして首位タイへ浮上。流れを変えたカギは二つあったそうだ。
「先週は心に痛手を受け、フラストレーションが溜まっていた。でも、自分でもマスターズのことを考えすぎてリキんでいたと思えてきた。だから、マスターズのことは考えず、“もしも”とか“でも”とか考えず、ただゴルフをすることだけを考えようと気持ちを切り替えた」
もう一つ、パットの際、肩を少しだけオープンにしてみたら「ラインが見やすくなった」。
この二つがポールターを変え、彼のゴルフを変え、最終日も出だしから首位を走り続け、マスターズ出場ににじり寄っていた。
15番で新人のボウ・ホスラー(米国)に追い抜かれた。16番も17番もバーディーが奪えず、18番で6メートルのバーディーパットを沈めなければ敗北。そんな土壇場でも顔色を変えず、冷静さを保ち続け、キャディと笑い合ってさえいたポールターを見たとき、彼の勝利を予感した。
ポールターはバーディーパットをカップの真ん中から堂々と沈め、プレーオフに持ち込んだ。プレーオフに突入した途端、ホスラーのゴルフは大きく乱れ、バンカーからバンカーへ、そして池へ。ホスラーは米ツアー初優勝とマスターズ初出場に限りなく近づいていたが、その夢はたった1ホールで一気に遠のいていった。
ホスラーが経験不足で未熟な新人だからだったのかと問われたら、かわいそうだが答えは「イエス」だ。少なくともポールターは、過去に何度も優勝争いに絡んでは逃し、メジャー大会でも悔し涙を飲み、世界13勝を挙げながら米ツアーではわずか2勝しか挙げていなかった。
そして、先週のように、望んでもいない誤情報に振り回され、世界ランキング51位という最も悔しい位置に立たされ、それでも望みを捨てず、ラストチャンスに挑んだ。そしてさらに心を切り替え、平常心で戦った。
そんな経験をしてきた選手と比べたら、新人選手の当然ながら少なすぎる経験は、彼らのメンタリティを土壇場の窮地に耐えうるほど強靭(きょうじん)にはしてくれないのだと思う。
ポールターには、その強さが備わっていた。だから彼は、近づいては遠のき、近づいては遠のいたオーガスタへの最後の切符を冷静に追いかけ、つかみとることができた。
「入るべきときにカップに沈んでくれた。落胆のあとの勝利と喜びは、すばらしい」
毒舌家。変わり者。いろいろ言われてきたポールターだが、42歳の今、いい表情といい心を携えて、すぐさまオーガスタに向かう彼を、今、とても応援したくなっている。
文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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