3日間競技では2番目の高額賞金大会「ほけんの窓口レディース」は鈴木愛の連覇で幕を閉じた。ここまで8試合に出場し、7試合でトップ3(優勝3回、2位2回、3位2回)と圧倒的な成績を残している賞金女王。上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏がその深層を語る。
【パター連続写真】鈴木愛が作り出す“間”に注目
■短いのに難しい ウェッジの精度が問われる難コース
ツアーでも短い部類に入る福岡カンツリー倶楽部 和白コース。昨年の総距離6,308ヤードから今年はさらに短くなり6,292ヤードに。この数字はこの1年の中で「ヨコハマタイヤ PRGRレディス」が行われた土佐カントリークラブ(6,228ヤード)に次ぐ短さである。それでもアップダウンにドッグレッグと戦略性が高い。今大会を含め、2桁のスコアが出たのはコース変更後7回中2回のみ。ともに10アンダーで優勝した14年のイ・ボミ、15年の申ジエ(ともに韓国)の2人だけだ。
今年は「例年よりもグリーンが柔らかく、ラフは短めだった(辻村氏)」という。そのため2日目を終えた時点で首位の鈴木は8アンダーと、例年よりもスコアが出る展開となったが、終わってみれば優勝スコアは7アンダー。大雨、強風の影響も相まって、最終日の難易度は増していた。
今大会で小祝さくらのキャディを務めていた辻村氏は、先週時点でドライビングディスタンス29位(239.26ヤード)につけていた小祝の飛距離でも、2打目でウェッジを使うホール(110ヤード以内)が9ホールもあったという。「グリーンに起伏があって難しい。戦略性が求められる。過去の優勝者を見てもイ・ボミさんや申ジエさんといった実力があり、その時に好調だった選手ばかりです」。同じく距離が短いトリッキーなPRGRレディスを制したアン・ソンジュ(韓国)、2位の鈴木が今大会でも1位・2位。ショートゲームの上手さが求められた。
■一瞬ピタッと止まるようなトップでの“間” 鈴木愛のパッティングで見習って欲しい部分
平均パット数(パーオンホール)、平均パット数(1ラウンド当たり)で1位に輝いているように、鈴木の強さの根幹はパッティングである。今大会でもそれは十分に発揮された。1打差で敗れた菊地絵理香が「どんなに長いパーパットでも“入れる気”しか感じない。タッチを出して入りそうな雰囲気が出ている」と話した通り、入れるのはもちろん、相手にかけるプレッシャーも尋常ではない。
「さきほど話したように、今年は昨年よりもグリーンが柔らかくて遅かった。雨が降った最終日はさらに遅かったわけです。それでも鈴木さんはその時々にタッチを合わせられる。これは生まれ持った“勘の良さ”と練習で培ったものでしょう」(辻村氏)。そんな鈴木のパッティングで今回、辻村氏が着目したのがトップである。
「トップでできる“間”がとてもいい。ピタッと止まるかと思うくらい。間ができる前に打ちに行けば、手元が出たり頭が上がったりしてヘッドが仕事をしない。しかし、鈴木さんのような間ができれば、次の動作に入ったときに体のズレも少なくなって、ヘッドがちゃんと仕事をしてくれる。これはソンジュさんにも松山英樹さんにも共通する部分です」
「“上げました、打ちました”ではなく、鈴木さんは間があるから“上げました、捉えました、打ちました”と一拍があるんです。その間があるから、たわまずにしっかりとボールを捕まえられて、球に重みがある。上げてそのまま下ろそうとすればたわむ。そうなるとボールにすべるように当たってしまうんです。是非アマチュアの方にもイメージとして“間”を持っていただきたい。ドライバーショットのトップで間を作るよりも、パッティングのほうがやりやすいと思います。とにかく打ちに行かないことが大事です」
最後に驚異的なペースで勝ち続ける鈴木にエールを。「これだけ結果を出すのは本当にすごいことです。鈴木さんは上手い、ではなく強い。だからこそ、日本ツアーの代表として出場する6月の全米女子オープンでも力を発揮して欲しいですね。日本ツアーもこれだけすごいんだぞ、というのを見せて欲しいです」
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、比嘉真美子、藤崎莉歩、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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