ツアー選手権3日目を終えたときだった。2位に3打差の単独首位に立ったタイガー・ウッズが最終日の戦い方を尋ねられ、「とてもコンサバティブなゲームプランで戦うつもりだ」と答えた。まさに、今のウッズだからこその返答だと感じずにはいられなかった。
【写真】タイガー・ウッズがインタビューで涙?
昔の、いや黄金時代のウッズなら、2位に3打差で最終日を迎えるとなれば「アグレッシブに攻めて勝利を目指すのみ」と即答していた。実際、これまでのウッズは54ホールを終えて3打あるいは3打以上の差で首位に立った過去23大会すべてで勝利を挙げ、実に勝率100%を誇ってきた。
だが、2013年のWGC-ブリヂストン招待を最後に勝利から遠ざかって以来、長く険しい道を歩んできたウッズは、かつてのエリート街道とは異なる道を踏みしめながら、いろんなことを学んだのだと思う。
攻めすぎれば落とし穴にはまり込むこともある。ときと場合によっては、守ることが最大最高の攻めになることもある。そんな人生とゴルフの教訓を、ウッズはいろいろな苦難の中で学び取り、それが彼の勝利を目指す戦い方に変化とバリエーションをもたらしたのだと思う。
最終日。1番こそピン2.5メートルを捉えてバーディ発進し、アグレッシブに攻めているかに見えたかもしれない。だが「1番でバーディが取れたから、残り17ホールはパーでいい。それでもアンダーパーで回れば、きっと勝てるから」。
そんなふうに最終日のウッズは前日に口にした「コンサバティブなゲームプラン」を忠実に守り続け、ピンを狙わずグリーンセンターに乗せるゴルフを心がけていた。ミスしたあとほどリスクを避けて、安全に、安全に。そういうゴルフで1つ1つパーを重ねていった。
昔のウッズと比べたら、石橋をたたいて渡るような慎重でセーフティなゴルフだった。だが、それでさえもやっぱりピンチは訪れた。
15番でボギーを喫し、2位と3打差で難しい上がり3ホールへ。左ラフにつかまった16番でもボギーをたたき、2位と2打差で上がり2ホールへ。ウッズの表情は険しかった。
17番も左ラフへ。セカンドショットはグリーン右奥のラフへ。だが、そこから1メートルへ寄せて、なんとかパーを拾った。
「あの17番のパーセーブが大きかった。18番を2打差で迎えるか1打差で迎えるかは大違いだから」
1打の違いが心にもたらしたほんの少しの余裕にウッズは心底、感謝していた。18番はパー5だが、イーグルでもバーディーでもなく、最後はパーで勝利を決めた。
「1日中、守りのゴルフでコンサバティブなゲームプラン通りにプレーできたことが僕はうれしい」
振り返れば、ウッズはこの5年超の間、プランさえ立てられず、見通しすら立たない暗い闇の中を通ってきた。腰の状態は回復するのかどうか。痛みはいつ収まるのか。戦線復帰はできるのか。できるとしたら、いつごろなのか。昨年5月にはDUI(危険運転)で逮捕され、人生そのものの見通しに疑問符が付いたこともあった。
そんな暗闇からなんとかはい出し、恐る恐る前へ踏み出し、今年1月に戦線復帰できてからは「まず18ホール」「次は予選2日間」「次は4日間」と徐々に前進。「次は上位入り」「次は優勝争い」とプランを立てながら戦えるようにもなっていた。今季6度のトップ10入りは、控えめに立てた彼の復活計画がうまく遂行できた証だった。
とはいえ、シーズン最終戦で復活優勝を遂げ、80勝目を挙げることは、プランではなく、願いだった。
「とても勝ちたい。でも、すぐ後ろから好調な選手たちが追いかけてくる。最終日はどうなることか…」
だからこそ、ウッズは安全着実なゲームプランを立て、今の自分にとっては守りこそが最高の攻めだと考え、そのプランを守り通して復活優勝の願いをかなえた。
「でも祝勝会のプランは、まだ何もない。そんなことを考える以前に、とにかく勝った」
おめでとう、タイガー・ウッズ。世界中がそう言っているのだから、祝勝会はノープランでもノープロブレムだ。
きっと、これからのウッズは「次の優勝は、こうやって祝おう」と、プランを立てられるウッズになっていくのではないだろうか。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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