「わぁ!広くて気持ちいい!」、「こんな近くで選手が見られるんだ〜」、「わ〜い!サインもらっちゃった。隣にいた子供には『ゴルフするの?』って聞いて、グローブにサインしてあげていたよ。スゴくいいよね」。いずれも、はじめてゴルフトーナメントを見に行った人の感想だ。
【写真】この2年、女子ツアー人気を引っ張ったアン・シネも見納め?
先週行われた日本オープン最終日の横浜CCは、朝がた雨が少しちらついた程度で、午後には日差しが降り注ぐまずまずの観戦日和。休眠ゴルファー1名、ゴルフ未経験者1名とともに見に行くと、いつもの取材では気づかないことが、山ほど見えてきた。彼女たちの言葉には、いずれもゴルフ業界の人間が耳を傾ける価値のあるものばかりだった。
スポーツ観戦の中でも、ゴルフだからこその“売り”には、素直に感動してくれた。コースの気持ちよさ、自由に歩き回れる楽しさ。プレー中の選手との距離の近さや、ホールアウト後の選手の気さくさ(これは、選手の態度次第ではマイナスポイントにもなる)などなど。
では、ゴルフならではのマイナスポイントはどうだろう。まず「何にもわかんないけど行っても大丈夫?」と聞かれるのには驚いた。お客さんだというのに、自然に気を遣わせてしまう。このハードルの高さこそ、最も考えなくてはならない点だろう。
「ルールがわからない」、「ボールの行方が目で追えない」点。前者は、他のスポーツ観戦でも十分にあることだが、広いフィールドに選手が散らばっているゴルフでは、そういう観客もいる前提でのインフォメーションがもっと必要だろう。日本オープンでは選手の居場所アプリもあったが、これも、見る人がゴルフをわかっている前提でのもので、流れがよくわからない人には何が何だかわからない。後者については、慣れが必要だが、グリーン側から見ることで、まずは事なきを得た。
決められた場所以外は撮影禁止であること(練習日のみで本戦中は禁止)。アドレスに入ったら動いたり音を出したりしてはいけないことを説明し、納得してもらったが、話しているうちにこちらが申し訳ない気持ちになった。ギャラリー相手に、もう少し何とかならないものか。「見てもらう」という視点がやはり足りない。例えば、石川遼の組では、ティグラウンド回りにスマートフォン撮影するファンが数多くいたが、混乱はほとんどなかった。禁止はしていても、運営側も静止しきれないし、ファンもプレーヤーも、すでに慣れっこになっている印象だった。だったら、規制を変える方向で考えればいいのではないだろうか。
「誰を見たい?」と聞くと、返ってきた答えはやはり「石川遼くん」。2ホールだけだが、身近で見られたことで喜んでもらえた。ゴルフに詳しくない人に知られているのは、やはりスーパースターの証明といえるだろう。
1番ティグラウンド後方のギャラリースタンドで何組か見送った後、終盤は18番グリーン脇のスタンドで観戦したが、バーディーパットが決まった瞬間には手をたたいて喜ぶころには、彼女たちは立派なゴルフファンになっていた。
チャンピオンズブレザーを着て紙?製の優勝カップを持って撮影できるブースは、意外なほど喜ばれた。SNSで拡散してもらえたが、こうして、ゴルフをしない人の間に広がるのはごく自然な形だろう。
日本代表育成のためと言う名目で500円以上のチャリティーになっているパッティングチャレンジも、楽しいアトラクションだったようだ。パターすら初めて持った人にとっては「ゴルフをした」という貴重な体験になる。
仮設ながら驚くほどきれいだったトイレ、タイミングさえよければそれほど並ばなくていいフード売店など、いい感じに過ごせた日曜日。ギャラリー数が8011人と聞いて納得したが、興行という面を考えれば、このままでいいとは思えない。
4枚つづりの前売り券(1枚2500円)については「1日過ごせてこんなに楽しいなら高くない」といっていたが、(決勝ラウンド)当日券の5000円では「高い」と感じるそうだ。今回は自分も完全ギャラリーだったが、値段については同様の感想だ。そのあたりも踏まえて、考慮の余地があるかもしれない。
今回はスケジュールとロケーションから日本オープン最終日での”観戦ツアー“だったが、もちろん、ほとんどのことが女子ツアーにも当てはまる。今回、JGA(日本ゴルフ協会)ブースに貼ってあった3オープンポスターにあった歴代優勝者の写真を見ながら、ごく普通の50代女性である彼女たちの知っているプロを挙げてもらった。女子は宮里藍、岡本綾子、樋口久子くらい。畑岡奈紗も知られていなかった。男子も尾崎将司、青木功、中嶋常幸、石川遼、池田勇太、松山秀樹が関の山。何度も書いていることだが“ゴルフの普及”は、プレーヤーを増やすことだけにあるのではない。
プロスポーツとして興行を考えたとき、ゴルフをしない人にも見に来てもらうことに心を砕く必要がある。そのためにはまず選手を知ってもらい、ゴルフを少しでも知ってもらい、ハードルを下げること。お高く留まっている場合ではない。実際にコースに足を運べば、これほど楽しんでもらえる。今回はたった2人の事例にすぎないが、それでも、ゴルフ業界には貴重なことが山ほど出てきた。もっと大勢で調査し、努力することが必要なのはいうまでもない。(文・小川淳子)
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