アマチュア時代の2014年4月「KKTバンテリンレディス」制覇から4年半。先週の「大王製紙エリエールレディス」は“黄金世代”の筆頭選手と呼ばれ続けた勝みなみのプロ初優勝で幕を閉じた。2位に4打差をつける圧勝。その勝因を上田桃子らを指導するツアープロコーチの辻村明志氏が語った。
■勝みなみが練習グリーンで意識づけしていたこととは?
2016年優勝のテレサ・ルー(台湾)が、24アンダーで72ホールの最少ストローク記録を樹立した大会。今年も勝が20アンダーをマークするなど、予想通りの伸ばし合いとなった。「今年のグリーンはとてもキレイで、もともと切れ方にクセもないコース。選手は気持ちよくパットに臨めるコンディションでした」と辻村氏もハイスコア合戦を予想していたというが、勝の勝因もやはりパッティングがカギとなった。
「アマチュア時代から強気のパットが勝さんの持ち味。いつ見ても“しっかりと打ち切る”という印象で、外した時には2mオーバーというのもざら。今回はそのパットでゲームを作りましたね」
今季の勝の平均パット数を見ると、1ラウンド当たりの「28.3366回」というスタッツは全体1位を誇る。さらにパーオンホールの「1.7526回」も全体2位と、グリーン上でその強さを発揮している。今大会の4日間平均パット数「27.50回」も全体1位タイ。前述したグリーン状況も、パット巧者が優位に試合を進めるうえでいい方向に働いた。
今大会2日目のラウンド終了後に辻村氏は、練習グリーン上でパット練習を行う勝が“もっとしっかり打ちたい”と言いながら、入念にボールをコロがし続ける姿を見かけたという。「芯でしっかりと打つことを意識しながら練習を続けていました」。勝自身は、予選ラウンドを終えた時点で勝機が見えていたということか。
■ショット不振の功名?アプローチ技術が向上
今年の夏から秋にかけて、勝は「試合に出たくなかった」と話すほどの不振に陥った。8月の「ニトリレディス」から1つの棄権を含め5試合連続で予選ラウンドで姿を消した、それは「これまでに味わったことがない」(勝)というほどのスランプだった。その原因を辻村氏は「ティショット、特にドライバーにありました。曲がらず、そこそこ飛距離もある勝さんですが、調子が上がらない時には“どプッシュ”する場面も目につきました」と話す。
今季の勝のフェアウェイキープ率「55.6577%」は全体91位。今大会も56ホール中25回しかティショットがフェアウェイを捉えず、これは決勝ラウンドに進んだ57人中下から2番目の成績だ。さらに初日に関しては14ホール中わずかに2回。本来ならスコアメイクに苦しむ数字だ。
だが今回のコースはラフも短く、フェアウェイを外してもグリーンを狙うことは十分に可能。そして勝はパットも含め、グリーン周りの技術でスコアを稼いでいった。優勝後の会見では、「ティショットが曲がるようになって、アプローチ練習をこれまで以上に取り組みました」という話も口にしていた。
「選手は、ショットの状態が悪い時にはアプローチ練習を必死にやるもの。勝さんもそれがいきてきたのかもしれません。ここがよくないと平均パットも上がってはきませんから」
7月の「サマンサタバサ レディース」の会場で勝に話を聞いた時に「ショットが曲がる。真っすぐ飛んで欲しいと神頼みしています」とすでにティショットへの不安を口にしていた。“ケガの功名”か。調子が悪い部分を埋め合わせる技術を、勝はこの期間で養ってきた。
■チャンスホールでしっかりと伸ばし、難易度の高いホールは締めるマネジメント
グリーン周りの技術とパッティングの精度をいかしたマネジメントも冴えた。
「今回は平均スコアがアンダーパーのホールが全部で9つありました。獲れるホールで伸ばし、3、6、14、16番という難度の高いホールをいかに乗り切るか。これだけバーディホールがあると、マネジメントがより重要になってきます」
難度の高かった上記4ホールで、勝が4日間で喫したボギーはわずかに2(初日の14番、3日目の16番)。一方、アンダーパーだったホール(4、5、8、9、10、11、12、13、17番)で合計17個のバーディを奪い、ボギーは0(ゼロ)。しっかりとポイントを押さえたラウンドを続けた。
「優勝したとはいえ、ショットの問題が解決したとは思えません。それでも、ここでの勝利は勝さんにとっては大きな意味がある。プロとして勝っておきたい、そういう時期だったように思えます。2位に4打差をつけたのは見事。自らのスタイルを貫いた結果の勝利ですね」
■自己最高の2位フィニッシュ・松田鈴英の伸びしろ
3日目を終えて、勝とスコアで並び、最終日最終組で優勝を争ったのは松田鈴英。結果的には4打差をつけられる形になったが、自己最高の単独2位フィニッシュ。賞金ランクでも10位に浮上してきた。
「16アンダーという成績は本来優勝してもおかしくないスコア。今回は勝さんに軍配が上がっただけです。松田さんの魅力は、インパクト時のヘッドの入り方が分厚く、そこからフィニッシュまでよどみがないこと。アイアンショットのインパクトから20〜30cm、ここがほかの若手選手と比べて群を抜いています。ボールをとらえてから、さらにギアを上げてくるような印象。これが打球の強さを生みだしていますね。体のバネもあるし、天性のものを感じる。伸びしろはまだまだあると思います」
まだスイング面は、体が止まる、手を離してしまう場面も目につき、完成には至っていないが、分厚いインパクトは一見の価値ありだ。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、比嘉真美子、藤崎莉歩、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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